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  • 私の引退後の働き方――「働かない自由」ではなく、自分で決められる自由

    私にとっての引退後の働き方 私にとって、引退後の働き方とは、自分の時間を誰と何のために使うかを、自分で決められることです。 このホームページで、私はよく「引退後の生活」という言葉を使っています。 ただ、私のいう「引退」は、一般的にイメージされる「仕事をすべて辞めて、何もしない生活」とは少し違います。 私が引退して感じたのは、働き方を自分で決められる自由こそ、私が求めていた引退の形だったということです。 実際、私は現在も日本とモンゴルで2つの法人を運営しています。 ですから、「それで引退と言えるのだろうか?」と思われる方もいるかもしれません。 私自身、改めて「自分にとって引退とは何だろう」と考えてみました。 そして今、一番しっくりくるのは、 私が引退したのは、仕事そのものではなく、「仕事に追われる生活」だったのだと思います。 働かないことが、私にとっての引退ではありません。 今日、働くか、働かないかを自分で決められること。 今の私にとっては、それが「引退」という言葉に一番近いように思います。 ただ、ひとつ決めていることがあります。 お互いに不満を抱えながら、どちらかが無理をしなければ続かないような仕事や人間関係は、もう持たないということです。 仕事ですから、多少の意見の違いや大変なことがあるのは当然です。 ただ、どちらかが我慢し続けなければ成り立たない関係まで、無理に続ける必要はないと思うようになりました。 逆に、信頼できる人や、一緒にいて気持ちよく仕事ができる人、自分が「この人のためなら少し動いてみよう」と思える人とは、これからも関わっていきたいと思っています。 お金になるかどうかだけではなく、 「誰と関わるか」を自分で決められること。 これも、今の生き方で私が大切にしていることのひとつです。 この考え方は、引退してから始まったものではありません 実は、こうした考え方は引退してから持つようになったものではありません。 19歳で商売を始めた頃から、私はどちらかというと、 無理をしてまで仕事を取らない。お互いに気持ちよく付き合えない相手とは、無理に仕事を続けない。 そんな考え方で経営をしてきました。 もちろん、若い頃は生活もありますし、会社を維持する責任もあります。 すべて自分の好きなようにできたわけではありません。 それでも、「売上になるなら、どんな仕事でも、どんな相手でも受ける」という経営は、できるだけしないようにしてきました。 それは、社員についても同じでした。 こちらから無理に人を集めるというより、「ここで働きたい」と思ってくれる人と一緒に仕事をする。 私は昔から、そんな考え方で人を雇ってきました。 仕事をする相手も、一緒に働く人も、どちらか一方が無理をして成り立つ関係では、長くは続かないと思っていたからです。 ところが、長く会社を経営しているうちに、日本の事業環境もずいぶん変わったように感じるようになりました。 法律や制度、労務管理、税務、社会的な責任など、会社が守らなければならないことは昔より増えています。 もちろん、その中には必要なものもたくさんあります。 働く人を守ることも、消費者を守ることも大切です。 ただ、その一方で、小さな会社であっても経営者が背負わなければならない責任や管理は、とても大きくなりました。 昔のように、 「信頼できる人たちと、気持ちよく仕事をする」 というシンプルな経営だけでは、会社を維持することが難しい時代になったように、私は感じています。 これは「今の日本では商売ができない」という意味ではありません。 実際に、今の時代に合わせて立派に経営している方はたくさんいます。 ただ、少なくとも私自身は、 そこまでして会社を大きくしたり、売上を追い続けたりすることに、もう魅力を感じなくなりました。 それが、私が引退を決めた一番大きなきっかけだったのかもしれません。 今は、仕事を受けるか受けないかだけでなく、誰と関わるのかも自分で決める。 好きな人や信頼できる人から「ちょっと力を貸してほしい」と言われれば、自分にできることなら動く。 自分自身が「これは面白そうだ」「やってみたい」と思ったことがあれば、やってみる。 誰と関わり、何をするのかを、自分で決める。 今の私にとっては、それくらいの働き方がちょうどいいのだと思っています。 自分自身が「これは面白そうだ」「やってみたい」と思ったことがあれば、やってみる。 そして、そこで経験したことを、このホームページに残していく。 何もしないことが、私の引退ではありません。自分の時間を、誰と、何のために使うのかを自分で決められること。 それくらいが、今の私にはちょうどいいのだと思っています。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 草原で行うモンゴルの祈り──香煙で清め、乳を天と大地に捧げる儀式

    草原で行うモンゴルの祈り──香煙で清め、乳を天と大地に捧げる儀式本の神 旅の途中で出会ったモンゴルの祈りの儀式 今回のモンゴル滞在では、草原で行われる祈りの儀式を、実際に目の前で見る機会がありました。 目的地へ向かう途中、友人の家族が何度も車を止め、草原で祈りを始めました。 私が見た場面では、乾燥した家畜の糞を使って煙を立て、その後、乳を空へ向かって撒いていました。 乳を捧げる行為は「Сүүний цацал өргөх」と呼ばれる祈りにあたるようです が、名称や作法の詳しい意味については、今後さらに確認していきたいと思っています。 何より印象に残ったのは、観光客に見せるための演出ではなく、旅の途中でごく自然に行われていたことです。 自然への祈りが、この家族の暮らしの中に息づいているように感じました。 日本の神社で手を合わせる気持ちにも通じるもの この光景を見ながら、私は日本の神社で手を合わせることを思い浮かべました。 信じる対象や作法は違っても、自然への感謝や、大切な人の無事を願う気持ちには、通じるものがあるのかもしれません。 長く受け継がれてきたことだけで、目に見えない力の存在を証明できるわけではありません。 それでも、人々が祈りを大切にしてきた背景には、心の支えや、自然との向き合い方としての意味があるのではないかと感じます。 目に見えるものだけではなく、目に見えないものにも心を向ける。その時間には、日々の暮らしの中で忘れがちな感謝を思い出す意味もあるのかもしれません。 作法を尊重しながら、自分の心も大切にする 一方で、伝統や信仰の説明も、時代や人の都合によって変わることはあると思います。 だからこそ、何でもそのまま信じるのではなく、自分で考え、自分の心で感じることも大切にしたいのです。 これは、受け継がれてきた作法を否定するということではありません。その土地の文化や、人々が大切にしている信仰には、敬意を持って接したいと思っています。 そのうえで、私自身は、形をなぞることだけにとらわれず、自分の中から自然に生まれる祈り方と、感謝の気持ちを大切にしたいと思っています。 草原で出会った祈りは、私にとって、自然や目に見えないものとの向き合い方を考えるきっかけになりました。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 日本の「言った者勝ち」で、我慢する人ほど疲れてしまう理由

    私は会社を経営していた頃から、「お客様は神様」という考え方で商売をしたことがありません。 もちろん、お金を払っていただくお客様は大切です。 しかし、だからといって理不尽な要求まで受け入れる必要はない。 私は「そこまでして稼ぎたくない」と考えていました。 今振り返ると、その姿勢を最初からはっきり示していたからなのか、私の会社にはいわゆるクレーマーのような人があまり近寄ってこなかったように思います。 会社で新しい事業所を出した時にも、こんなことがありました。 市役所に、私の会社に対する嫌がらせとも思えるような通報が何度も入るようになりました。 最初は匿名でした。 ところが、それが何度も続くうちに相手も慣れてきたのでしょう。次第に誰が通報しているのか分かるようになりました。 そこで私は、逃げたり我慢したりするのではなく、その人の家まで行って直接話をしました。 普通に話しても通じない相手だと感じていたので、こちらも「この人には下手に関わらない方がいい」と思われるくらい、あえて普通ではない態度で接しました。 すると、それまで続いていたことが収まりました。 そして意外だったのは、その後です。 この出来事が近所に知れ渡りました。 私はてっきり、「あの人は怖い」「そこまでしなくても」と悪く言われるかと思っていました。 ところが実際は逆でした。 近所の人たちから、 「よく言ってくれた」 と言われたのです。 話を聞いてみると、周囲の人たちもその家に対して長い間いろいろと思うことがあったようです。 でも、近所だから揉めたくない。 何か言えば面倒なことになる。 だから、みんなずっと我慢していた。 私はこの経験が、今でも強く印象に残っています。 一人だけが好きなことを言い、周囲の何人もの人が黙って我慢する。 そして、その状態が長く続けば、言っている本人は「自分の主張は正しい」「言えば通る」と思うようになってしまう。 これこそが「言った者勝ち」を生み出す一つの構造なのではないでしょうか。 もちろん、何でも喧嘩をすればいいという話ではありません。 相手を威圧すればいいということでもありません。 ただ、理不尽な要求に対してまで「揉めたくないから」と譲り続ければ、結果的に理不尽な人だけが得をする社会になってしまいます。 これは商売でも近所付き合いでも同じだと思います。 「お客様は神様だから」 「近所だから」 「会社だから」 「面倒だから」 そうやって一人ひとりが少しずつ我慢する。 一つひとつは小さな我慢でも、それが社会全体に積み重なれば、働く人のストレスになり、企業には余計な対応コストが生まれ、最後には社会そのものが息苦しくなっていく。 私は海外で生活していると、日本ほど周囲のことを細かく気にして、他人の行動に口を出すことが少ないと感じる場面があります。 もちろん国や人によって違います。 ただ海外では、強く言えば相手も強く言い返すことがあります。 だからこそ、お互いに必要以上に相手の領域へ踏み込まない。 そんな距離感が自然に生まれている社会もあるように感じます。 日本人の「我慢できる」「相手を思いやれる」という性格は、本来とても良いものだと思います。 でも、その優しさを利用する人まで受け入れる必要はありません。 「言った者勝ち」ではなく、「理不尽なことを言った人には、きちんとNOと言える」。 そんな社会になった方が、結果的には普通に暮らしている多くの人が、もっと楽に生きられるのではないでしょうか。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 浜松市天竜区の古民家再生|離れ部屋の壁を漆喰から塗装へ変更

    本日は、浜松市天竜区で進めている古民家再生の続きです。 今回は、離れ部屋の壁を整えました。 当初は漆喰の使用量を抑えるため、下地に墨を入れてから漆喰を塗る予定でした。 しかし、実際に壁を確認すると、この部屋は壁と窓枠との間にほとんど段差がありません。 漆喰を重ねると塗膜が厚くなり、窓枠との収まりが悪くなる可能性があるため、今回は漆喰仕上げではなく、艶消し塗料による塗装へ変更しました。 浜松市天竜区の古民家再生は、現場に合わせて工法を変更 古民家再生では、作業を始める前に決めた方法が、そのまま使えるとは限りません。 建物の状態や壁の厚さ、窓枠との段差などを実際に確認しながら、工法を変える必要があります。 今回は漆喰を使わないことにしましたが、これは作業を諦めたのではありません。 壁と窓枠をきれいに収めるために、現場に適した仕上げ方へ変更したということです。 塗り壁をシーラーで固めてから艶消し塗料で仕上げる 離れ部屋の壁は、古い塗り壁です。 そのまま塗装すると、表面が剥がれたり塗料を吸い込みすぎたりする可能性があります。 そこで、最初にシーラーを多めに塗り、壁の表面をしっかり固めました。 シーラーが乾いてから、艶消し塗料を塗って仕上げています。 艶を抑えた塗料を使うことで、古民家の落ち着いた雰囲気にも自然になじみました。 漆喰とは違う仕上がりですが、この部屋の状態には塗装の方が合っていると思います。 古いエアコンカバーも手直しして再利用 屋外のエアコンカバーは、新しく購入せず、以前からあったものを手直しして再利用しました。 新しい材料をすべて買い揃えれば、作業は簡単かもしれません。 しかし私は、なるべく廃材や手元にある材料を活かし、まだ使えるものは工夫しながら再利用するようにしています。 費用を抑えられるだけでなく、廃棄するゴミも減らすことができます。 使えるものを活かすのも古民家再生の魅力 古民家には、現在でも十分に使える材料や設備が残っていることがあります。 古いという理由だけですべてを捨てるのではなく、使えるものを見極め、必要に応じて手直ししながら活用する。 私は、それも古民家再生の大きな魅力だと思っています。 今回も、壁の状態に合わせて仕上げ方を変更し、古いエアコンカバーを再利用しました。 費用とゴミをできるだけ抑えながら、古い家に残っているものを大切に使い、自分の手で少しずつ整えていきます。 浜松市天竜区の古民家再生では、建物の状態を確認しながら、使える材料を活かして少しずつ作業を進めています。【作業日:2026年3月7日】

  • モンゴルとベトナムを比較――今のモンゴルは20年前のベトナムに似ている

    今日、ベトナム人の友人経営者と電話で長く話しました。モンゴルとベトナムを比較すると、現在のモンゴルは20年ほど前のベトナムと、さまざまな点で似ていることが見えてきました。 最初は不動産の話でしたが、話が進むにつれて、現在のベトナムとモンゴルの違い、建設ラッシュ、税金、賃金、人手不足、中小企業の経営環境まで話題が広がりました。 私がモンゴルで実際に見て感じていることと、友人がベトナムで経験してきた変化を比べると、ひとつの共通点が見えてきました。 今のモンゴルは、20年ほど前のベトナムに似ているのではないか。 以前から何となく感じていましたが、今回の話で、その考えがさらに強くなりました。 約3年前に購入を検討したマンションが1億円近くに 私は約3年前、ベトナム人の友人から勧められたマンションの購入を検討し、実際に現地まで買い付けに行きました。 当時、私が聞いていた外国人向けの販売価格は約2,300万円でした。一方、ベトナム人向けの価格は約1,800万円だったと聞いています。 今回、友人から聞いた現在の価格は、1億円近くになっているというものでした。 約2,300万円から1億円なら、単純計算で約4.3倍です。ベトナム人向けとされた約1,800万円から考えれば、5倍以上になります。 もちろん、これは当時、友人から勧められた特定のマンションの事例です。 すべてのベトナム不動産が同じように上昇したわけではありません。場所、広さ、建物の品質、開発状況、購入条件などによって、価格は大きく異なります。 それでも、成長国の不動産価格が大きく動く過程を考えるうえで、非常に興味深い事例だと思います。 ベトナムで知った、日本の海外送金の現実 私は実際にマンションを購入するつもりで、ベトナムまで足を運びました。 しかし、日本からの海外送金がうまく進まず、残念ながら購入には至りませんでした。 後から聞いた話では、私と同じように、海外送金の問題によって購入できなかった日本人もいたそうです。 このとき私は初めて、海外に不動産を購入する意思と資金があっても、日本の銀行から自由に送金できるとは限らないという現実を知りました。 ただ、この頃はまだ、 「必要な書類を細かく揃えれば、最終的には送金できるだろう。自分で働いて得た自分のお金なのだから、いくら何でも送れないことはないだろう」 と、比較的軽く考えていました。 しかし、その後、モンゴルで法人を設立し、不動産を購入する過程で、日本から海外へまとまった資金を送ることの厳しさを、身をもって知ることになりました。 送金目的が明確で、正式な契約書があり、資金の出どころを説明できても、それだけで必ず送金できるわけではありません。 銀行によって対応や必要書類が異なり、送金相手、口座名義、実質的支配者、契約内容、資金の使い道など、細かな確認が行われます。必要な説明をしても、最終的には銀行側の判断で送金を断られることもあります。 物件を選び、売買条件が整っていても、最後に資金を送れなければ購入は成立しません。 ベトナムでマンションを購入できなかった経験は、日本の海外送金の難しさを知る最初のきっかけでした。 そしてモンゴル不動産の購入では、それが一時的な問題ではなく、海外投資を行う日本人にとって大きな壁になっていることを、改めて実感しました。 この経験から、海外不動産では物件選びと同じくらい、送金を受け付ける銀行、必要書類、送金先の名義、契約内容、送金目的などを、購入前に確認しておくことが重要だと学びました。 モンゴルとベトナムを比較して見えた共通点 外国人に市場を開けば、世界のお金が入ってくる 私が不動産価格を押し上げる大きな要因のひとつだと考えているのが、外国人に不動産市場を開放することです。 ベトナムでは、2015年に施行された住宅法により、一定の条件のもとで外国人による住宅所有が広く認められるようになりました。 私は約3年前に、外国人でもベトナムのマンションを購入できることを知り、現地へ買い付けに行きました。 外国人が購入できなければ、買い手は基本的に国内の人に限られます。 しかし、市場を外国人に開放すれば、世界中の投資家や移住希望者が購入者になります。 国内の所得水準だけで決まっていた不動産価格が、海外の所得や資金力とも比較されるようになるのです。 モンゴルでも、外国人が一定の条件のもとでマンションなどの建物を購入できます。ただし、ベトナムもモンゴルも土地には別の制限があるため、マンションの所有と土地の所有は分けて考える必要があります。 市場開放は海外資金を呼び込む一方で、不動産価格が現地の平均所得から離れ、一般の人が住宅を購入しにくくなる問題も生みます。 成長には、必ず良い面と難しい面の両方があります。 現在のベトナムは建設ラッシュ 友人が何度も話していたのが、現在のベトナムの建設ラッシュです。 住宅、工場、道路、商業施設など、さまざまな建設が続いているそうです。 ベトナムは製造業への海外投資が多く、政府もインフラ整備を進めています。 建設が増えれば、建設作業員だけでなく、運送、資材、設備、整備、飲食、住宅など、周辺産業にも仕事が生まれます。 友人は、この状態が続けば、近いうちに人手不足になるのではないかと話していました。 さらに、ベトナム国内の賃金や仕事が増えれば、現在海外で働いているベトナム人も、いずれ母国へ戻るようになるのではないかという話にもなりました。 日本で働くことが常に一番有利だとは限らない時代が、少しずつ近づいているのかもしれません。 成長とともに税金や制度も厳しくなる 友人によると、現在のベトナムでは、以前より税金の管理が厳しくなっているそうです。 路上で営業する小さな店まで、課税や申告の対象として把握されるようになってきたという話でした。 成長初期の国では、現金商売や小規模な露店など、行政が把握しきれない経済活動が多く存在します。 しかし、経済が発展し、電子決済や行政システムが整うと、それまで把握されていなかった商売にも税務管理が広がります。 国が発展する過程では、ある意味で自然な変化です。 しかし、負担が増えるのは大企業だけではありません。小さな商店、個人事業者、中小企業も同じです。 友人も、「以前より商売が難しくなり、中小企業の利益が減った」と話していました。 自動車の車検についても、関連費用を含めて約5万円かかると聞きました。平均賃金を考えれば、決して小さな負担ではありません。 ただし、車種、地域、税金、保険、整備費用などが含まれている可能性があるため、ベトナム全国一律の車検料金として判断することはできません。 経済が成長すると社会は便利になりますが、同時に税金、車検、保険、各種手続きなども増え、以前よりお金と規則に厳しい社会になります。 ベトナムの平均月給は思ったほど上がっていない 友人によると、現在のベトナムの平均月給は日本円で約10万円とのことでした。 統計上の平均賃金は、対象や地域によって差があります。全国平均では月額約820万ドン程度という資料もあり、日本円に換算すれば約5万円前後です。 一方、都市部、専門職、外資系企業などでは、それ以上の賃金を得ている人も多いため、友人が話していた月給約10万円という感覚も、都市部では不自然ではありません。 それでも、ベトナムの経済成長や不動産価格の上昇と比べると、一般の人の賃金は思ったほど上がっていないように感じます。 私は、その理由のひとつに、ベトナムドンの為替水準があると考えています。 仮にドンが円に対して3倍の価値になれば、同じドン建ての給料でも、日本円に換算した金額は3倍になります。 ただし、これは円換算額の話です。ベトナム国内の物価や雇用、輸出企業の競争力も変化するため、現地での実質賃金まで単純に3倍になるわけではありません。 ベトナムは輸出製造業によって成長してきました。 通貨が急激に高くなれば、海外から見た人件費も上昇し、輸出企業や外国企業にとっての価格競争力が低下します。 そのため、ベトナムは為替と物価を管理しながら、輸出、製造業、海外投資による成長を優先している面があるのではないかと私は推測しています。 平均給与だけでは分からない収入もある 統計上の給与だけでは、ベトナムの人たちの生活を説明できない部分もあるように感じます。 家族による商売、副業、不動産収入、現金収入、海外からの送金など、給与以外の収入を持つ人もいるのではないかと思います。 これはモンゴルでも同じです。 公表される平均給与だけを見ると、それほど高くありません。しかし、実際の生活や消費を見ると、給与以外の収入を得ている人も少なくないと感じます。 新興国の生活水準を、平均給与だけで判断しない方がよいと思います。 今のモンゴルは20年前のベトナムに似ている 現在のモンゴルには、ベトナムが急成長を始めた頃と似た部分があります。 若い人口が多い 地方から首都へ人口が集中する 建設ラッシュが始まっている 不動産価格が上昇している 海外から資金が入り始めている 自動車や住宅への需要が増えている 制度やインフラが後から追いかけている もちろん、両国には大きな違いがあります。 ベトナムは人口1億人を超える製造業・輸出国です。一方、モンゴルは人口約350万人で、鉱物資源への依存が大きい内陸国です。 そのため、モンゴルがそのままベトナムと同じ道を進むとは限りません。 それでも、成長国が発展していく途中で起きる現象には、多くの共通点があります。 ベトナムの現在を見ることは、モンゴルがこれから経験する可能性のある変化を考える材料になります。 私にとって不動産の価値は「建物」より「環境」 私が不動産を見るとき、建物だけを見ているわけではありません。 不動産の価値を決めるのは、建物そのものよりも、その周囲にどのような環境があるかだと考えています。 私は、不動産はある意味で「テーマパーク」に似ていると思っています。 テーマパークの価値は、ひとつの建物だけで決まりません。 周囲の景観、交通、店舗、安全性、楽しさ、そこで過ごせる時間など、環境全体によって価値が生まれます。 ドバイを見ても、そのことがよく分かります。 道路、空港、高層ビル、商業施設、観光施設、人工島などをつくり、都市全体の環境価値を高めたことで、世界中から人とお金が集まりました。 しかし、モンゴルには人工的につくらなくても、最初から世界的に珍しい大自然があります。 広大な草原、山、湖、大きな空、星空、動物、遊牧文化。 これらは、ほかの国が巨額の資金を投じても簡単につくることができません。 私は、モンゴルの大自然そのものが、経済成長した国の都市インフラに匹敵する、場合によってはそれ以上の価値を持つ「自然インフラ」だと考えています。 モンゴルの気候は、大自然を守る維持装置 モンゴルの大自然には、もうひとつ大きな特徴があります。 それは、温暖で湿度の高い国と比べて、自然環境を維持するための手間が比較的少ないことです。 日本や東南アジアでは、草木が勢いよく成長します。 放置すれば雑草が伸び、木の枝が広がり、虫も増えます。高温多湿の環境では、物が腐りやすく、カビや臭いも発生しやすくなります。 自然が豊かな一方で、快適な環境を維持するには、草刈り、剪定、防虫、防腐、防カビなどの手入れが必要です。 モンゴルは寒冷で乾燥しています。 草が必要以上に伸びにくい 高温多湿な地域より虫が少ない 物が腐敗しにくい カビや臭いが発生しにくい 広大な景観が比較的少ない管理で保たれやすい モンゴルの人にとっては当たり前の環境かもしれません。 しかし、湿気、雑草、虫、カビ、腐敗に悩まされる国から来た人にとっては、大きな魅力です。 モンゴルの厳しい気候は、欠点であると同時に、大自然を維持する装置でもある。 もちろん、まったく自然管理が必要ないわけではありません。 モンゴルにも砂漠化、過放牧、ゾドと呼ばれる寒害、廃棄物などの問題があります。乾燥した土地は、一度傷つくと植物が回復するまで時間がかかる場合もあります。 それでも生活環境として見れば、草、虫、湿気、カビ、腐敗への対策が少なくて済むことは、海外の人にとって明確なメリットだと思います。 モンゴル政府に伝えたいほど評価している暖房政策 モンゴルで実際にマンションを購入し、日本とモンゴルの両方で生活しているからこそ分かったことがあります。 それは、モンゴルの暖房政策が、外国人から見ると極めて評価の高い政策だということです。 モンゴルの人にとって、冬の暖房は当たり前の生活基盤でしょう。 しかし、海外の人は母国の暖房費や光熱費と比較します。 世界でも有数の寒冷都市であるウランバートルでは、外が氷点下30度近くになっても、地域暖房に接続されたマンションなら室内を暖かく保つことができます。 しかも、物件によっては暖房費が月額数千円程度の管理費に含まれています。 私が購入したマンションも、管理費に暖房が含まれています。 日本で冬に広い部屋を一日中暖め続ければ、電気代や燃料代は相当な金額になります。 その日本と比較して初めて、モンゴルの暖房環境がどれほど価値のあるものかが分かりました。 モンゴル政府にとっては、国民生活を守るための暖房政策。外国人から見ると、移住や不動産購入を後押しする極めて価値の高い政策です。 この価値は、モンゴル国内にいるだけでは気づきにくいかもしれません。 暖房費を比較的低く抑えられれば、外国人も冬を含めた長期滞在を考えやすくなります。年間の生活費を予測しやすくなり、マンションも長期保有しやすくなります。 ただし、すべての住宅で暖房費が安いわけではありません。 地域暖房につながっていないゲル地区や一戸建てでは、石炭、電気、断熱設備などの負担があります。 外国人向けに最も価値を伝えやすいのは、地域暖房に接続された、断熱性能の高いウランバートルのマンションです。 モンゴルの売りは「寒くないこと」ではない モンゴルの寒さを隠す必要はありません。 むしろ、次のように伝えた方が本当の価値が分かります。 モンゴルの売りは、寒くないことではありません。世界でも有数の寒さを、比較的安い費用で快適にしのげることです。 寒さが大自然を守り、資源と地域暖房が人の生活を守る。 この組み合わせは、世界的に見ても珍しいと思います。 道路、空港、高層ビルだけが、外国人を呼び込むインフラではありません。 厳しい冬でも安心して暖かく暮らせる仕組みも、モンゴルが世界へ誇れる生活インフラです。 人口約350万人は、見方を変えれば強みになる モンゴルの人口は約350万人です。 人口の少なさは、国内市場や労働力、不動産を売却するときの流動性という面では弱点です。 しかし、自然環境という視点では、人口が少ないことは強みにもなります。 人口が増えすぎれば都市開発が広がり、モンゴルらしい草原や静かな環境が失われる可能性があります。 私は、ウランバートルは大都会として発展し、都市を離れれば広大な自然が残っているという形がよいと思っています。 ウランバートルは大都会。そこを離れれば、世界でも珍しい大自然が広がっている。 この両方が存在することに、モンゴルの本当の価値があります。 人口1億人の国になる必要はありません。 約350万人という人口規模だからこそ、大都市と大自然を同時に維持できる可能性があります。 ベトナムの現在から、モンゴルの未来を考える 20年前のベトナムは、現在より不動産や物価が安く、税金や制度も緩やかだったのだと思います。 しかし、経済が成長し、不動産価格が上がり、行政制度が整備されると、社会は便利になる一方で、以前よりお金と規則に厳しくなります。 不動産価格が上がる 税務管理が厳しくなる 車や住宅の維持費が増える 人件費や材料費が上がる 中小企業の利益が圧迫される 資産を持つ人と持たない人の差が広がる 成長すれば、国民全員が同じように豊かになるわけではありません。 ベトナムの現在を見ることは、モンゴルがこれから経験する可能性のある変化を考えるうえで、大きな参考になります。 しかし、モンゴルにはベトナムとは違う、独自の価値があります。 世界的に珍しい大自然、それを維持する寒冷で乾燥した気候、資源国としての強み、そして厳しい冬の生活を支える地域暖房です。 今回、ベトナム人の友人経営者と長く話したことで、モンゴルの現在地と、モンゴルにしかない可能性が、以前よりはっきり見えた気がしました。 今のモンゴルは、20年前のベトナムに似ている。しかし、モンゴルはベトナムと同じ国になる必要はありません。 大都市として発展するウランバートルと、その外側に残る広大な大自然。 この両方を守りながら世界に市場を開くことができれば、モンゴルはほかの成長国とは違う、非常に魅力のある国になれると私は感じています。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • モンゴルの人口ピラミッドを日本と比較|人口の約77%が44歳以下の若い国

    モンゴルの人口ピラミッドを日本と比較すると、両国の人口構造がまったく違うことが分かります。 モンゴルの総人口は、2025年時点で約359万人です。日本と比べれば人口の少ない国ですが、国の将来性を考えるとき、総人口だけを見ても本当の姿は分かりません。 より重要なのは、子ども、若者、働く世代、高齢者が、人口全体の何%を占めているのかという「年齢構成」です。 モンゴルでは、人口の約77%が44歳以下です。人口ピラミッドを見ると、日本とは対照的な「若い国」であることがよく分かります。 モンゴルと日本の人口ピラミッドを比較 モンゴルと日本の年齢構成を比較すると、次のようになります。 年齢層 モンゴル 日本 0~14歳 約32% 約11% 15~44歳 約45% 約32% 45~64歳 約18% 約28% 65歳以上 約5% 約29% 年齢中央値 約27~28歳 約50歳 ※数値は2023~2025年頃の各種統計を基にした概数です。統計年や集計方法によって多少異なります。 モンゴル人口の重要ポイント 0~14歳:約32% 15~44歳:約45% 45~64歳:約18% 65歳以上:約5% 44歳以下:約77% 年齢中央値:約27~28歳 モンゴルは、人口の約4人に3人が44歳以下の若い国です。 モンゴルでは、約3人に1人が14歳以下です。 さらに、15~44歳が約45%を占めており、子どもと若い世代を合わせると人口全体の約77%になります。 一方、65歳以上は約5%です。 日本では65歳以上が約29%を占めるため、両国の人口ピラミッドは正反対に近い形になっています。 モンゴルの人口ピラミッドは「成長型」 モンゴルの人口ピラミッドは、子どもと若い世代が多く、年齢が上がるほど人数が少なくなる「成長型」です。 ただし、出生率は以前より低下しているため、完全な三角形ではありません。最も若い世代の部分が少し細くなり始めています。 それでも日本と比較すると、子どもや20代、30代の割合が非常に高く、これから社会を支える世代が厚いことが分かります。 人口の年齢中央値は約27~28歳です。これは、国民を年齢順に並べたとき、ちょうど中央に位置する人の年齢を表します。 日本の年齢中央値は約50歳なので、両国には20年以上の差があります。 出生率と死亡率にも大きな違いがある 人口構造の違いは、出生率と死亡率にも表れています。 項目 モンゴル 日本 出生率(人口1,000人当たり) 約20人 約5.5人 死亡率(人口1,000人当たり) 約5~6人 約12.9人 合計特殊出生率 約2.7人 約1.15人 年間人口増減率 約+1%台 マイナス モンゴルの出生率は、日本の約3.6倍です。 モンゴルでは出生数が死亡数を大きく上回っていますが、日本では死亡数が出生数の2倍を超えています。 この違いが、モンゴルの人口増加と日本の人口減少につながっています。 総人口より「人口全体の比率」が重要 モンゴルの総人口約359万人という数字だけを見ると、市場規模の小さな国に感じるかもしれません。 しかし、総人口が多くても、人口の中心が高齢者に偏り、若い世代が減り続けていれば、将来の労働力や消費は縮小していきます。 反対に、現在の総人口が少なくても、子どもと若い世代の割合が高ければ、これから働く人、家庭を持つ人、住宅や商品を購入する人が増える可能性があります。 したがって、国の将来性を見るときは、現在の総人口だけではなく、次の点を確認する必要があります。 人口が増えているのか、減っているのか 子どもと若者が何%いるのか 働く世代が今後も増えるのか 高齢者を支える世代が十分にいるのか 人口がどの都市や地域に集中しているのか モンゴルを理解するうえでは、総人口よりも、人口全体に占める若い世代の比率が重要です。 若い人口がモンゴル経済にもたらす可能性 子どもと若い世代が多ければ、将来的にさまざまな需要が生まれます。 特に関係するのは、次の分野です。 住宅・マンション 教育・学校 食品・衣料品 自動車・交通 スマートフォン・通信 銀行・金融サービス 医療・子育て支援 娯楽・観光 特にウランバートルには、全国人口の約半分が集中しています。 若い世代が進学や仕事を求めて首都へ集まるため、住宅や商業施設、交通、教育などの需要が拡大する可能性があります。 若い人口が多いだけでは成長は保証されない ただし、若い人口が多いという理由だけで、経済成長が保証されるわけではありません。 若者の増加に雇用や教育、住宅、道路、病院などの整備が追いつかなければ、失業、格差、交通渋滞、住宅不足、大気汚染などの問題が深刻になる可能性があります。 モンゴルが若い人口を本当の成長力に変えられるかどうかは、次の世代が働ける産業と社会基盤を整備できるかにかかっています。 したがって、モンゴルの人口構造には大きな可能性がある一方、解決しなければならない課題もあります。 まとめ|人口ピラミッドから見えるモンゴルと日本の違い モンゴルと日本の人口ピラミッドを比較すると、両国が異なる方向へ進んでいることが分かります。 モンゴルでは、人口の約32%が14歳以下、約45%が15~44歳です。つまり、人口の約77%が44歳以下です。 一方、日本では65歳以上が約29%を占め、子どもと若い世代は減少しています。 日本は総人口が多くても、人口が減少している国。モンゴルは総人口が少なくても、若い世代が多く、人口が増えている国です。 国の将来性を考えるとき、現在の総人口だけを見るのでは不十分です。 その国の人口が増えているのか、減っているのか。そして、人口全体の中で、これから社会を支える若い世代がどれくらいいるのか。 モンゴルの人口ピラミッドは、この国の将来性を考えるうえで欠かせない基礎資料だと思います。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • AIの進化スピードは想像以上――現実世界に本当の姿を現した瞬間、世界の人々考え方は一気に変わる

    私は、この2か月足らずの間、実際にAIを使いながら、その進化を見てきました。 わずか2か月でも、できることが一気に増え、処理の速さや正確さも明らかに変わってきたと感じます。 しかも、一つの機能が少しずつ改善されているだけではありません。 次から次へと新しい機能が加わり、これまでできなかったことが、短期間のうちにできるようになっています。 私はこの変化を見ながら、今回のAI革命で最も大きな問題は、AIの性能だけではなく、AIの進化スピードにあると感じるようになりました。 AIの進化スピードを、多くの人が実感できなかった理由 これまでAIの進化は、主にパソコンやスマートフォンなど、画面の中で起きていました。 文章を作る、画像を作る、翻訳する、計算する、情報を整理する。 こうした能力が急速に向上しても、日常的にAIを使っていない人には、その変化が見えにくかったと思います。 毎日AIを使っている人にとっては大きな進化でも、使っていない人から見れば「少し便利なソフトが増えた」程度にしか感じられなかったのではないでしょうか。 そのため、 「AIは、まだ人間には及ばない」 「仕事がなくなるのは、まだ先の話」 「本格的な実用化には10年、20年かかる」 と考えていた人も多かったと思います。 しかし現実には、少し前まで「10年先の技術」と思われていたようなものが、すでに実用化され始めています。 もはや「あと何年で実現するのか」を考える段階ではありません。 すでに始まった変化が、これからどれほどの速さで広がるのかを考える段階に入ったのです。 AIの進化が仮想空間から現実世界へ出てくる これまで画面の中にあったAIが、これからはロボットや自動運転車という機体を持ち、現実世界へ出てきます。 AIが頭脳となり、ロボットや自動車が身体になるのです。 世界の開発競争も、文章や画像を作る生成AIだけでなく、現実世界で移動し、物をつかみ、運び、組み立てる「フィジカルAI」へ広がり始めています。 私は、ここから人々の受け止め方が一気に変わると思います。 画面の中でAIが進化している間は、その速度を多くの人が共有できませんでした。 しかし、人型ロボットが工場で働き、無人のロボタクシーが人を乗せ、自動運転トラックが荷物を運ぶ姿を自分の目で見れば、誰もが変化を実感します。 仮想空間で起きていたAIの進化が、ロボットや自動車という機体を得て、現実世界に姿を現すからです。 人々がその姿を目にした瞬間、AIやロボットに対する世界の考え方は、一気に変わるのではないでしょうか。 そして社会が変化の大きさに気づいたときには、技術はすでに次の段階へ進んでいる可能性があります。 仮想空間では、現実と違うスピードで学習できる AIやロボットは、現実世界だけで一つずつ練習する必要がありません。 仮想空間の中で膨大な数の設計を試し、現実では不可能な回数の動作を、短時間で繰り返しながら学習できます。 転倒、故障、事故など、現実世界では危険で費用のかかる失敗も、仮想空間なら繰り返し再現できます。 そこで得られた学習結果を、現実世界のロボットや自動車へ送り込むことができます。 さらに、現実の機体が経験した成功や失敗を仮想空間へ戻し、学習し直した結果を再び多数の機体へ配信できます。 一台が覚えたことを、何万台もの機体が同時に共有できる。 これは、人間の成長とは決定的に違います。 人間は、一人が10年かけて身につけた経験を、別の人へ完全に移すことはできません。 しかし機械は、学習結果を複製し、世界中の機体へ短時間で配ることができます。 この仕組みが、AIの進化スピードをさらに速めていくのだと思います。 格安で超優秀な「人」が無数に増えるようなもの この変化を最も簡単に表現すれば、将来は人間より安く、休まず働き、しかも非常に優秀な「人」が、無数に増えるようなものです。 もちろん、実際には人間ではなく、AIとロボットです。 しかし企業から見れば、仕事を正確に行い、長時間働き、学習結果を共有できる存在です。 一台が新しい仕事を覚えれば、その能力をほかの機体にも移せます。 そのような存在と、人間が仕事の価格や速さで競争することになれば、新しく生まれる仕事よりも、なくなる仕事の方が多くなると考える方が自然ではないでしょうか。 だから私は、すぐに気づきました。 今回の産業革命は、これまでの産業革命とは別物だと。 以前の産業革命では、機械が人間の一部の作業を代わりました。 しかし今回は、AIが頭脳を持ち、ロボットが身体を持つことで、人間一人が担ってきた役割そのものを代わろうとしています。 当面は「AIを活用する仕事」が増える もちろん、すぐにすべての仕事がなくなるわけではありません。 当面は、AIを活用する仕事が増えるはずです。 現在は、AIへの指示、結果の確認、顧客との調整、最終判断など、まだ人間にしかできない役割が残っているからです。 そのため、しばらくはAIを使える人と使えない人の間で、仕事の速さや収入に大きな差が生まれるでしょう。 しかし、この状態も長くは続かないと私は思います。 AIが人間の指示を待たず、自分で考え、複数の仕事を進められるようになれば、現在「AIを活用する仕事」と呼ばれている仕事の多くも、やがてAI自身が行うようになるからです。 AGIが完成する前から、人間の仕事はAIへ移る 人間のように幅広い仕事を理解し、自律的に進められるAIは、一般にAGI(汎用人工知能)と呼ばれています。 しかし、完全なAGIが完成するまで仕事がなくならない、という意味ではありません。 現在のAIでも、仕事を細かく分け、複数のAIを組み合わせて自動化すれば、人間が担当していた仕事のかなりの部分を代わることができます。 つまり、AGIが誕生した瞬間に変化が始まるのではありません。 AGIへ近づく過程ですでに、人間の仕事は少しずつAIへ移っていくのです。 私は、この2か月足らずで起きたAIの変化を見ただけでも、AGIの段階へ、私たちが考えているより相当早く到達する可能性があると感じています。 そして、このAIの進化スピードは、おそらくロボットにも当てはまるはずです。 人々が自分の目で見た瞬間、世界は変わる これまでAIの進化は、仮想空間の中で進んでいたため、多くの人がその速度を実感できませんでした。 しかし、これからは違います。 AIがロボットや自動車という機体を持ち、現実の工場、道路、倉庫、店舗などで働き始めます。 人々がそれを自分の目で見た瞬間、AIは「便利な道具」から「自分の仕事を代わる可能性のある存在」へ変わります。 そのとき、企業、労働者、政府、投資家、そして一般の人々の考え方は、一気に変わるでしょう。 今回の最大の問題は、ロボットがいつか完成することではありません。 多くの人が気づかない間にも進化が続き、現実世界に姿を現した後は、想像以上の速さで普及する可能性があることです。 AIとロボットによる変化は、もう遠い未来の話ではありません。 私たちはすでに、その入口に立っているのだと思います。

  • AI・ロボットで仕事がなくなる時代は目の前に――仮想空間から現実世界へ

    AI・ロボットで仕事がなくなる可能性が高まっている。今回は「機械」ではなく、人そのものに近づいているから。 これまで、AIや人型ロボットによって人間の仕事がなくなるという話は、どこか遠い未来の予測として語られてきました。 しかし私は、もう「未来の話」と呼ぶ段階ではないと思います。 現代自動車の工場では、いよいよ労働者が現実の問題として反応し始めました。 現代自動車は、傘下のボストン・ダイナミクスが開発する人型ロボット「Atlas(アトラス)」を、2028年から米国ジョージア州の工場へ導入する計画です。 最初は、部品を順番に並べて供給する作業などから始め、将来は重い物を扱う作業や、さらに複雑な工程へ広げる方針とされています。 これに対し、 韓国の労働組合は雇用への影響を強く警戒しています。2026年にはストライキもはじまりました。 まだロボットが工場へ大量導入される前から、労働者が自分たちの雇用を守るために動き始めたのです。 ただし、ストライキの理由はロボット導入だけではありません。賃上げ、利益配分、定年延長なども含まれています。 それでも、人型ロボットによる自動化が正式な労使交渉の争点になったことは、大きな転換点だと思います。 今回は「機械」ではなく、人そのものに近づいている これまでの機械化は、溶接、塗装、運搬など、一つの決められた作業を置き換えるものでした。 しかし、人型ロボットは違います。 人間と同じ場所を歩き、人間用に作られた工具や設備を使い、複数の作業を覚えることを目指しています。 工場全体をロボット専用に作り替えなくても、人間が働いていた場所へ、そのまま入れる可能性があります。 これは、単なる機械の導入ではありません。 人間一人が担ってきた役割そのものを、AIと機体の組み合わせで置き換える動きです。 もちろん、ロボットの設計、製造、保守、管理といった新しい仕事は生まれます。 しかし、工場労働者1,000人を置き換えた場合、ロボットの管理者が新たに1,000人必要になるとは考えにくいでしょう。 そのため今回は、生まれる仕事よりも、なくなる仕事の方が多くなる可能性が高いと私は見ています。 これは従来の「古い仕事がなくなっても、それ以上に新しい仕事が生まれる」という考え方では説明できない変化になるかもしれません。 AIが頭脳の仕事を担い、ロボットが身体の仕事を担えば、人間に残る仕事の範囲そのものが急速に狭くなるからです。 テスラのロボタクシーは「車そのものがロボット」 この変化は、人型ロボットだけではありません。 テスラのロボタクシー「Cybercab(サイバーキャブ)」は、人型ロボットが運転席に座るのではなく、自動車そのものが頭脳と身体を持つ、一台のロボットです。 ハンドルやペダルを前提とせず、人間の運転手なしで乗客を運ぶことを目的に設計されています。 2026年9月には、米国テキサス州オースティンで限定的な運行が始まりました。 一方で、安全基準への適合について米当局が確認を進めており、まだどこでも自由に走れる完成形ではありません。 それでも、一度安全性と採算性が証明されれば、変化は想像以上に速いはずです。 タクシーだけでなく、宅配車、小型トラック、長距離トラックへ同じ考え方を広げられるからです。 物流では、人間のような足を作らなくても、車輪を備えた車両そのものを機体にできます。 倉庫では自動搬送機やロボットが荷物を積み、道路では自動運転車が運び、配送先では別のロボットが荷物を降ろす。 この仕組みがつながれば、発送元から届け先までの大部分を無人化できます。 仮想空間で学び、現実世界へ送り込まれる 私が今回、最も重要だと思うのはここです。 AIとロボットは、現実世界だけで一つずつ練習する必要がありません。 現在は、仮想空間の中で膨大な数の設計を試し、現実世界では不可能な回数の動作を短時間で繰り返しながら学習し、転倒や故障、事故まで再現する方法が、すでに使われています。 そこで得られた最も良い学習結果を、現実世界の車やロボットへ送り込むことができます。 そして、現実の機体が経験した成功や失敗を再び仮想空間へ戻し、学習し直した結果を、多数の機体へ一斉に配信できます。 一台が覚えたことを、何万台もの機体が同時に共有できる。 これが、人間の成長とは決定的に違うところです。 人間は、一人が10年かけて得た経験を、別の人へ完全に移すことはできません。 しかし機械は、学習結果を複製し、世界中の機体へ短時間で配ることができます。 頭脳となるAIの進化は、すでに非常に速くなっています。 残る大きな課題は、人間の手のような器用さ、転倒しにくい足腰、長時間動ける電池、故障しにくい耐久性、そして人件費より安くなる量産価格です。 しかし、その機体側の問題についても、AIを使って設計と実験を繰り返せます。 つまり、AIが機体を進化させ、進化した機体が現実のデータを集め、そのデータが再びAIを進化させる循環が始まっています。 「まだまだ先」という言葉は、もう昔の感覚になった これまでは、現在の技術を見て「実用化まであと10年」と直線的に予測してきました。 しかし今は、AIがAIの開発を助け、仮想空間で膨大な試行錯誤を行い、その成果を現実の機体へ移す時代です。 進化が倍々で進むのであれば、「まだまだ先」と安心していられる時間は、ほとんど残されていないかもしれません。 もちろん、物理法則やエネルギー、材料、安全性、法律の限界は残ります。「不可能が完全になくなる」とまでは言えません。 それでも、人間には複雑すぎた設計や、回数が多すぎてできなかった実験の多くが、計算によって可能になりつつあります。 計算でき、仮想空間で試せる問題であれば、これまで不可能と思われていたことの多くが、現実の選択肢に変わっていくでしょう。 今回の現代自動車の労働者の反応は、単なるロボットへの恐怖ではないと思います。 現場で働く人たちが、AIとロボットの進化を「遠い未来の話」ではなく、自分たちの雇用に直結する現実の問題として感じ始めたということです。 テスラのロボタクシーも、現代自動車のAtlasも、別々の話ではありません。 仮想空間で学習・設計された知能が、車や人型ロボットという機体を得て、現実世界へ送り込まれ始めた。 私は、ここが今回の大きな転換点だと思います。 そして、この変化は「いつか来る」のではありません。 現代自動車では労働者がすでに反応し、テスラのロボタクシーはすでに人を乗せて走り始めています。 機体の性能と量産価格が一定の水準を超えた瞬間、人間の仕事の置き換えは、私たちの予想を超える速さで進む可能性があります。 人間の仕事が大きく減る時代は、遠い未来ではなく、もうすぐそこまで来ています。 参考資料・関連動画 現代自動車の労働組合がAtlas導入による雇用への影響を警戒(Reuters) 現代自動車の労働者がストライキを決議(Financial Times) 現代自動車とボストン・ダイナミクスがAtlasを公開(AP通信) 人型ロボット導入に対する労働組合の反発を伝える動画(YouTube) Atlasが現代自動車工場で作業を学ぶ様子(60 Minutes/YouTube)

  • 2026年9月の現在地――AI革命は「頭脳の性能競争」から「人型ロボットの量産競争」へ

    2026年9月10日時点 指標 8月評価 9月10日評価 理由 ① 価格 70 72 低価格機と量産競争が継続 ② 連続稼働時間 65 72 長時間実証がさらに確認 ③ 人間介入率 50 55 限定作業で自律化が進展 ④ 失敗率 60 63 工場の限定工程で実用域が拡大 ⑤ 年間生産台数 45 55 ここが最も大きく動いている 総合 58 約63 / 100 約1か月でも前進 「人間の万能代替」約60%地点。「工場の特定作業の代替」は75〜80%地点。次の最大の分岐点は、年間生産10万台突破。 9月10日版。 指標 2026年9月10日の現在地 私の見方 ①価格 約65万円〜3,000万円級以上 低価格機は急速に低下 ②連続稼働時間 実用:10時間級/設計・運用想定:20時間/日級も 工場用途は現実段階 ③人間介入率 限定固定作業:数%級まで可能/汎用作業はまだ課題 最大の観測ポイント ④失敗率 限定作業:数%級まで接近/複雑・未知環境では高い 自己復旧能力が重要 ⑤年間生産台数 2026年:5〜6万台規模予測 最重要。次は10万台

  • 2026年8月の現在地――AI革命は「頭脳の性能競争」から「人型ロボットの量産競争」へ

    2026年8月の現在地、AI革命は次のステージへ――主戦場は「頭脳の性能競争」から「人型ロボットの量産競争」へ 2026年、AI革命の次の焦点は「人型ロボットの量産」に移り始めています。 今後の焦点は「世界で今年、人型ロボットは実際に何台作られたのか?」 この数字は、AIが画面の中から現実世界へ出てくるスピードを測る、かなり良い“時計”になりそうです。 ロボットは人間の100%を再現する必要はありません。人間の仕事の70%しかできなくても、長時間稼働でき、賃金が不要で、価格が下がれば、企業は「人間を補助する機械」ではなく労働力そのものとして導入し始めます。 第1段階:AIの頭脳を作る→ かなり進んだ 第2段階:AIに身体を与える→ いまここ 第3段階:身体を安く大量生産する→ 2026〜数年の最大の競争 第4段階:大量配備 → 大量の実世界データを収集→ AIがさらに賢くなる 第5段階:人間より安く・長く・安定して働く→ 本格的な労働代替 「身体が完成してから知能を作る」必要がない。 身体が一定水準に届いたら、かなり高性能なAIをすぐ載せられます。 私は今後を見るなら、AIのベンチマークよりも、むしろロボットの 年間生産台数・価格・故障率・稼働時間・人間介入率 の方が、雇用への影響を読むには重要になると思います。 年間10万台超→ 「実証実験の時代」から「本格導入の入口」 年間30万台超→ 工場・物流でかなり目に見えて普及開始 年間100万台超→ 雇用統計に影響が出始めてもおかしくない 年間500万〜1,000万台→ これはもう産業革命レベルです。 「この記事を読んだ人におすすめ」→ 関連記事 2026年8月20日の一言まとめロボットはまだ人間ではない。しかし「研究室の中」からは完全に出た。

  • 国民生活は苦しいのに、なぜ日本は海外支援を続けられるのか?

    日本政府は「財政に余裕がない」と言いながら、海外には多額の支援を続けています。 そのため、私は以前から疑問を感じていました。 日本の子どもや若者、子育て世帯までが生活の苦しさを感じているのに、なぜ海外へこれほど多くのお金を出せるのか。そもそも、海外に貸したお金は本当に返済されているのか。 そこで、外務省、JICA、OECDなどの資料を調べてみました。 結論からいうと、日本の海外支援のすべてが「返ってこないばらまき」ではありませんでした。 実際には、返済される円借款や政府貸付が多く含まれ、日本には毎年かなりの元本と利息が戻っています。 一方で、返済されない無償支援、国際機関への拠出、債務免除もあります。 問題は、これらが一緒に「海外支援」として語られるため、返済されるお金と返済されないお金の違いが、国民にほとんど伝わっていないことです。 海外支援は、すべてが貸付ではない まず、海外支援を大きく分類すると次のようになります。 表示される言葉 実際の内容 日本への返済 注意点 円借款 相手国政府などへの低利・長期融資 原則あり 有償資金協力の一部。別に合計すると二重計上 有償資金協力 円借款・海外投融資など 原則あり 返済猶予・条件変更・免除になる場合あり 融資・政府貸付 国・国際機関等への貸付 原則あり 出資とは別 無償資金協力 病院・学校・防災・食料支援など なし 援助先に返済義務はない 供与 資金・機材等を渡す総称 文脈次第 無償供与なら返済なし、借款供与なら返済あり 拠出 国連・世界銀行基金等への資金提供 原則なし 日本に直接返済されない 緊急・人道支援 災害・紛争・難民支援 原則なし 多くは無償・国際機関経由 出資 国際金融機関・基金・企業等への持分 返済期限なし 配当・利益・株式価値として戻る可能性あり 債務救済・債務免除 過去の貸付を減額・免除 免除分は戻らない 新しい現金支出ではないが、債権を放棄する 「円借款」は「有償資金協力」に含まれています。そのため、この二つを別々の援助として合計してはいけません。 また、「無償融資」という表現も正確ではありません。返済義務がなければ「無償支援」、返済義務があれば「融資・貸付」です。 日本はいくら支出し、いくら回収しているのか 次の表は、日本のODAについて、実際に支出した金額と、過去の貸付などから回収した金額をまとめたものです。 以下単位は億円、暦年、概数です。 年 ODA総支出 回収された額 回収後の純支出 2011 16,138 7,302 8,836 2012 14,895 6,431 8,464 2013 21,875 10,682 11,193 2014 16,856 6,818 10,038 2015 18,185 7,049 11,135 2016 18,287 6,954 11,334 2017 20,710 7,851 12,859 2018 19,051 7,936 11,115 2019 20,634 7,854 12,780 2020 21,677 7,093 14,584 2021 24,097 6,790 17,307 2022 29,260 7,249 22,011 2023 33,730 7,502 26,228 2024 30,196 7,087 23,107 2025 詳細確定値未公表 詳細確定値未公表 詳細確定値未公表 出典は、外務省の各年版「開発協力白書」参考統計とOECDのDAC資金フロー統計です。外務省・ODA実績、OECD・ODA統計 2011年から2024年までの合計 2011~2024年累計 金額 ODA総支出 約30兆5,600億円 回収額 約10兆4,600億円 回収後の純支出 約20兆1,000億円 過去14年間だけでも、ODA全体の統計上、約10兆円規模の回収が確認できます。 したがって、 「海外に貸したお金は、まったく返済されていない」 という見方は正しくありません。 ただし、その年に貸したお金が、その年に返済されたわけではありません。円借款は返済期間が非常に長いため、20年、30年前に貸したお金の返済も含まれています。 また、この回収額は主に元本であり、利息収入は別に計上される場合があります。 直近8年間の内訳 「返済不要」は二国間贈与と国際機関向け贈与・拠出等、「新規貸付」は政府貸付等の実行額です。 債務救済は返済不要分の内数になることがあるため、別に足してはいません。 年 返済不要の支援 新規貸付等 元本等の回収 うち債務救済 2017 約9,337 約11,380 約7,907 約21 2018 約8,759 約10,306 約7,992 約26 2019 約9,167 約11,473 約7,907 0 2020 約8,534 約13,167 約7,145 0 2021 約10,057 約14,046 約6,791 0 2022 約10,844 約18,427 約7,250 約4 2023 約14,224 約19,506 約7,502 0 2024 約12,574 約17,622 約7,087 約148 2024年には、約1兆7,622億円の新規貸付等が行われる一方、約7,087億円が回収されています。 さらに、返済されない贈与・拠出等が約1兆2,574億円ありました。 これらの無償支援には、医療、学校、防災、食料、災害、難民支援などが含まれます。そのすべてが無駄というわけではありません。 しかし、年間1兆円を超える規模である以上、支援の必要性と成果を一件ずつ検証する必要があります。 債務免除はどの程度行われたのか 外務省によると、2003年度から2024年度までの公的債務免除は、累計約2兆2,996億円です。 その内訳は、 ODA債権:約1兆1,438億円 ODA以外の公的債権:約1兆1,558億円 となっています。 2011年度以降で金額が大きかった年度は次のとおりです。 年度 債務免除額 2011年度 約996億円 2012年度 約1,153億円 2013年度 約2,192億円 2016年度 約1,197億円 2024年度 約148億円 外務省・公的債務免除の実績 債務免除には、最貧国の再建、人道上の必要性、国際的な合意などの理由があります。 しかし、返済が難しい国に追加融資を行う場合には、 なぜ追加支援が必要なのか 今度は返済できる見込みがあるのか 再び債務免除になる可能性はないのか 貸付ではなく無償支援にすべき案件ではないのか を国民に説明する必要があります。 調べて分かったこと――すべてが無駄遣いではなかった 私も当初、日本政府が海外へ出しているお金の多くは、返済されない支援なのではないかと思っていました。 しかし、実際に調べると、それは正確ではありませんでした。 日本の海外支援には、元本と利息が返済される円借款や政府貸付が多く含まれています。 JICAの2025年度決算では、概算で次の金額が計上されています。 貸付金の元本回収:約8,479億円 貸付金の利息収入:約1,615億円 新たな貸付による支出:約1兆9,260億円 元本と利息を合わせると、年間約1兆円規模の資金が戻っています。JICA・2025年度事業報告書 円借款によって道路、鉄道、港湾、空港、発電所などが整備されれば、日本企業の受注や海外進出、資源確保、外交、安全保障にも一定の効果があります。 したがって、日本政府が海外支援で、すべてでたらめなことをしているわけではないことは理解できました。 海外支援のすべてを「返ってこないばらまき」と表現するのは、事実とは違います。 ただし、問題がないわけではない 1.国別の返済状況が見えにくい 日本全体の貸付額、回収額、JICA全体の利息収入などは公表されています。 しかし、国民が本当に知りたいのは全体の合計だけではありません。 中国から、今年いくら返済されたのか インドやインドネシアから、いくら返済されたのか どの国に、あといくら貸付残高があるのか 国別の利息収入はいくらか 返済が遅れている国と金額はいくらか 返済猶予や債務免除をいくら行ったのか こうした数字を国別・年度別にまとめた統一表は見当たりません。 情報がまったく存在しないというより、個別の円借款契約、国別の協力実績、JICA全体の決算、債務免除の実績などが、別々の資料に分散しています。 そのうえ、国別の利息収入、延滞額、個別事業の返済完了状況など、公開資料だけでは確認できない項目もあります。 2.上海浦東国際空港のODAは完済されたのか 例えば、中国の上海浦東国際空港に対する円借款について、事業内容や貸付契約額は確認できます。 しかし、 元本が全額返済されたのか 利息を含めて総額いくら返済されたのか 返済が完了したのは何年なのか 現在も返済中なのか を国民が簡単に確認できる資料は見当たりません。 これは「返済されていない」という意味ではありません。 返済されている可能性があっても、その結果を国民が一目で確認できないことが問題なのです。 3.公開していることと、国民に伝わることは違う 政府側は、「決算書や統計資料で公開している」と説明するかもしれません。 しかし、何百ページもの資料や複数のウェブページを調べなければ分からない状態では、国民に十分説明しているとは言いにくいと思います。 貸した金額はニュースになりますが、返済された元本、受け取った利息、残っている債権、延滞額、免除額は、ほとんど報道されません。 これでは、多くの国民が「海外支援は全部返ってこない」と思ってしまうのも無理はありません。 海外融資が適切に行われ、実際に返済されているのであれば、詳しい数字を分かりやすく公開することは、政府にとっても不利ではないはずです。 むしろ、「海外支援はすべてばらまきだ」という誤解を解くことにつながります。 国別一覧を毎年公表するべきではないか 少なくとも、政府またはJICAは、次のような表を毎年公表するべきだと思います。 貸付先 新規貸付額 元本回収額 利息収入 年末貸付残高 延滞額 返済猶予額 債務免除額 中国 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 インド ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 インドネシア ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 バングラデシュ ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 その他 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 合計 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 さらに、主要事業については、次のような事業別一覧も必要です。 事業名 相手国 貸付総額 元本返済額 利息収入 未回収額 返済状況 上海浦東国際空港建設事業 中国 ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 完済・返済中・延滞 鉄道建設事業 インド ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 返済中 発電所建設事業 インドネシア ○億円 ○億円 ○億円 ○億円 返済中 これなら、政府批判をする人も、政府を擁護する人も、同じ数字を基に議論できます。 日本国内との優先順位も考える必要がある 厚生労働省の調査では、日本の子どもの相対的貧困率は11.5%です。およそ9人に1人の子どもが相対的貧困状態にあります。 特に「大人が一人」の子育て世帯では、貧困率が44.5%に達しています。 また、経済的な理由で就学援助を受けている小中学生は、約130万人とされています。厚生労働省・国民生活基礎調査、こども家庭庁・こどもの貧困 こうした国内事情がある一方、2024年には、 返済されない海外支援:約1兆2,574億円 新たな海外貸付等:約1兆7,622億円 が実行されています。 海外支援をすべて止める必要はありません。 しかし、国内で食費、教育費、医療費に困っている子どもや家庭がいる以上、海外支援だけを聖域にすることも適切ではないと思います。 新規貸付や無償支援を一時的に抑え、回収した資金や利息の一部を国内へ回すという選択肢も、検討してよいのではないでしょうか。 ただし、回収した元本は再融資の原資になり、JICAにも調達金利や管理費があります。そのため、回収額のすべてを国内財源に使えるわけではありません。 少なくとも、 元本回収額と利息収入から、調達金利、管理費、貸倒れ、債務免除を差し引いた実質的な利益はいくらなのか。 を公表し、その一部を教育、子育て、生活支援へ還元できないか検討するべきだと思います。 私が問題にしたいのは、海外支援そのものではない 今回調べてみて、日本政府が海外支援で、すべてでたらめなことをしているわけではないと分かりました。 円借款は実際に返済され、日本には毎年多額の元本と利息が戻っています。 だから、海外支援そのものをすべて否定するつもりはありません。 しかし、返済されない支援、債務免除、返済困難国への追加支援、国別の回収状況が分かりにくいという問題は残っています。 海外支援そのものを否定するのではなく、日本の国民生活が苦しい現在、新規貸付と無償支援の規模を見直し、海外から回収した元本や利息の一部を、国内の子ども、教育、子育て、生活支援に還元できないだろうか。 これが、私が本当に問題提起したいことです。 「海外支援はすべてばらまきだ」と決めつけるのも正確ではありません。 一方で、「貸付だから問題ない」として、無条件に海外支援を拡大するのも違います。 必要なのは、貸した金額、返済された元本、受け取った利息、現在の貸付残高、延滞額、返済猶予額、免除額を国別に分かりやすく公表し、その数字を基に国内と海外への配分を考えることです。 日本には、本当にお金がないのか ここで区別しなければならないのは、「日本政府の財政」と「日本という国全体の資産」です。 日本政府は多額の国債残高を抱え、社会保障費も増加しています。その意味では、政府の財政に余裕があるとはいえません。 しかし、日本企業、金融機関、政府、個人が海外に持つ資産から、海外が日本に持つ資産を差し引いた日本の対外純資産は、2024年末で約533兆円に達しました。 さらに2025年末には約562兆円まで増えています。財務省・対外資産負債残高、日本銀行・対外資産負債残高 つまり、日本は貧しい国になったわけではありません。 大企業や金融機関、海外資産を持つ層には大きな富があります。一方で、その利益や資産が国内の賃金、子育て、教育、地方経済へ十分に回っていないことが問題です。 日本には富がないのではなく、富のある場所と、生活の苦しさを感じている場所が大きく離れてしまった。 海外支援についても同じです。 支援をすべてやめるのではなく、返済状況と成果を明らかにし、必要な海外協力は続けながら、回収した資金や利益を日本の子どもや国民にも還元する。 今の日本に必要なのは、海外支援の全面否定ではなく、国民が納得できる透明性と、国内外のバランスを取り直すことではないでしょうか。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 円安と日本財政の限界が見え始めた今、なぜ福岡県議会問題はここまで大きくなったのか?

    円安と日本財政の問題が、政治を見る目を変え始めたのか 円安と福岡県議会問題から考える日本の現在 今回の円安と福岡県議会問題を見ていて、私は一見別々に見える二つの出来事にも、今の日本が抱える問題が表れているように感じました。 福岡県議会をめぐる一連の問題を見ていて、私は以前から強い違和感を持っていました。 高額な海外視察や不自然な契約、議長・副議長のポストをめぐる金銭授受疑惑。 もちろん、事実関係については今後の調査を待たなければなりません。 しかし、大きな影響力を持つ政治家で、似たような疑惑が、過去に報じられたことはありました。 それでも、一時的に注目されるだけで、本人の政治生命を左右するほどの問題には発展せず、いつの間にか忘れられてしまうことが多かったように思います。 ところが、今回の福岡県議会問題は違いました。 報道は長期間続き、海外視察の費用や契約方法、議会内部の金銭授受にまで調査が広がり、最終的には議長が議員辞職を表明する事態にまで発展しました。 私は、この展開を見ながら、一つのことを考えました。 もしかすると、この問題は、現在の円安や日本の財政状況と、間接的につながっているのではないか。 これは、あくまで私の推測です。 円安の先で問われるもの 現在の円安には、日米の金利差だけでなく、日本経済の成長力低下や貿易構造の変化、海外への資金流出など、複数の原因があります。 しかし、円安が長期化するほど、最終的に市場から問われるのは、日本という国に対する信頼ではないでしょうか。 日本政府は巨額の国債残高を抱えています。 その一方で、補助金や給付金、効果の分かりにくい事業、複雑な制度にも多額の税金が使われています。 財政への不安が強まれば、政策金利だけで円を支えることは難しくなります。 金利だけを上げれば円安を抑える効果は期待できますが、国債の利払い負担は増え、住宅ローンや企業融資にも影響します。 つまり日本は、金利を上げればすべて解決するという単純な状況ではありません。 最後に問われるのは、 「集めた税金を、本当に必要なことへ使っているのか」 という財政そのものだと思います。 福岡県議会問題が全国へ与えたメッセージ 私は、政府が意図的に福岡県議会を狙ったと断定するつもりはありません。その証拠もありません。 ただ、結果として今回の問題は、全国の自治体や議会に対して非常に強いメッセージになりました。 これまでは慣例として認められていたことでも、これからは通用しない。 高額な海外視察や不透明な契約、公金と政治活動の境界が曖昧な支出については、説明責任を求められる。 言い換えれば、 「これからも同じ感覚で税金を使えば、全国的な問題になる」 という事例を、日本中に見せた形になったのではないでしょうか。 海外投資家からも見られている日本の税金の使い道 ここで忘れてはならないのは、日本の税金の使い道は、国内の国民だけが見ているわけではないということです。 海外の投資家や金融機関は、日本の政策金利だけでなく、国債残高、財政赤字、政府の予算、補助金や給付金の内容まで見ながら、日本円や日本国債を持ち続けてよいのかを判断しています。 もちろん、海外の投資家が福岡県議会の問題を一つひとつ詳しく見ているとは限りません。 しかし、国や地方で公金の不透明な使い方が繰り返され、それを日本自身が改められないとなれば、日本全体の財政規律に対する評価にも、少しずつ影響していく可能性があります。 反対に、国と地方が無駄な支出を見直し、税金の使い道を透明にすれば、 「日本には、自ら財政を立て直す力がある」 というメッセージを海外へ示すことができます。 円の価値は、政策金利や為替介入だけで決まるものではありません。 日本が集めた税金を何に使い、将来に向けてどのような国をつくろうとしているのか。 その姿勢自体が、海外から見た日本円への信頼につながっているのではないでしょうか。 国も地方も、同じ方向へ進む可能性 財政健全化というと、増税や社会保障の削減ばかりが議論されます。 しかし、本来最初に行うべきなのは、国や地方自治体、議会が自らの支出を見直すことです。 国民に負担を求める前に、政治や行政が無駄を減らす。 その姿勢を見せなければ、増税にも社会保障改革にも国民の理解は得られません。 福岡県議会問題がこれほど大きく扱われた背景には、公金の使い方に対する社会の許容度が、すでに変わり始めていることもあると思います。 円を守る終点は、財政への信頼 為替介入は、一時的に円を買い支えることができます。 政策金利の引き上げも、日米の金利差を縮める効果があります。 しかし、それだけでは、日本経済そのものに対する信頼を取り戻すことはできません。 円の価値を長期的に支えるのは、 日本経済が成長できること 税金が効果的に使われていること 国債を持ち続けても大丈夫だと思われること 政治や行政が自ら規律を守ること ではないでしょうか。 私は、福岡県議会問題を単なる一つの地方議会の不祥事として見るだけでは、少し足りないように感じています。 これから日本が財政健全化へ向かう中で、全国の政治や行政に対して、 「これまでのような税金の使い方は、もう許されない」 と知らせる最初の大きな事例になった可能性があります。 もちろん、これは現時点では私の推測です。 しかし、円安の先にある問題を考えていくと、最後に行き着くのは、やはり財政への信頼なのではないでしょうか。 も印象に残ります。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

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