国民生活は苦しいのに、なぜ日本は海外支援を続けられるのか?
更新日:9月10日

日本政府は「財政に余裕がない」と言いながら、海外には多額の支援を続けています。
そのため、私は以前から疑問を感じていました。
日本の子どもや若者、子育て世帯までが生活の苦しさを感じているのに、なぜ海外へこれほど多くのお金を出せるのか。そもそも、海外に貸したお金は本当に返済されているのか。
そこで、外務省、JICA、OECDなどの資料を調べてみました。
結論からいうと、日本の海外支援のすべてが「返ってこないばらまき」ではありませんでした。
実際には、返済される円借款や政府貸付が多く含まれ、日本には毎年かなりの元本と利息が戻っています。
一方で、返済されない無償支援、国際機関への拠出、債務免除もあります。
問題は、これらが一緒に「海外支援」として語られるため、返済されるお金と返済されないお金の違いが、国民にほとんど伝わっていないことです。
海外支援は、すべてが貸付ではない
まず、海外支援を大きく分類すると次のようになります。

表示される言葉 | 実際の内容 | 日本への返済 | 注意点 |
円借款 | 相手国政府などへの低利・長期融資 | 原則あり | 有償資金協力の一部。別に合計すると二重計上 |
有償資金協力 | 円借款・海外投融資など | 原則あり | 返済猶予・条件変更・免除になる場合あり |
融資・政府貸付 | 国・国際機関等への貸付 | 原則あり | 出資とは別 |
無償資金協力 | 病院・学校・防災・食料支援など | なし | 援助先に返済義務はない |
供与 | 資金・機材等を渡す総称 | 文脈次第 | 無償供与なら返済なし、借款供与なら返済あり |
拠出 | 国連・世界銀行基金等への資金提供 | 原則なし | 日本に直接返済されない |
緊急・人道支援 | 災害・紛争・難民支援 | 原則なし | 多くは無償・国際機関経由 |
出資 | 国際金融機関・基金・企業等への持分 | 返済期限なし | 配当・利益・株式価値として戻る可能性あり |
債務救済・債務免除 | 過去の貸付を減額・免除 | 免除分は戻らない | 新しい現金支出ではないが、債権を放棄する |
「円借款」は「有償資金協力」に含まれています。そのため、この二つを別々の援助として合計してはいけません。
また、「無償融資」という表現も正確ではありません。返済義務がなければ「無償支援」、返済義務があれば「融資・貸付」です。
日本はいくら支出し、いくら回収しているのか
次の表は、日本のODAについて、実際に支出した金額と、過去の貸付などから回収した金額をまとめたものです。

以下単位は億円、暦年、概数です。
年 | ODA総支出 | 回収された額 | 回収後の純支出 |
2011 | 16,138 | 7,302 | 8,836 |
2012 | 14,895 | 6,431 | 8,464 |
2013 | 21,875 | 10,682 | 11,193 |
2014 | 16,856 | 6,818 | 10,038 |
2015 | 18,185 | 7,049 | 11,135 |
2016 | 18,287 | 6,954 | 11,334 |
2017 | 20,710 | 7,851 | 12,859 |
2018 | 19,051 | 7,936 | 11,115 |
2019 | 20,634 | 7,854 | 12,780 |
2020 | 21,677 | 7,093 | 14,584 |
2021 | 24,097 | 6,790 | 17,307 |
2022 | 29,260 | 7,249 | 22,011 |
2023 | 33,730 | 7,502 | 26,228 |
2024 | 30,196 | 7,087 | 23,107 |
2025 | 詳細確定値未公表 | 詳細確定値未公表 | 詳細確定値未公表 |
出典は、外務省の各年版「開発協力白書」参考統計とOECDのDAC資金フロー統計です。外務省・ODA実績、OECD・ODA統計
2011年から2024年までの合計
2011~2024年累計 | 金額 |
ODA総支出 | 約30兆5,600億円 |
回収額 | 約10兆4,600億円 |
回収後の純支出 | 約20兆1,000億円 |
過去14年間だけでも、ODA全体の統計上、約10兆円規模の回収が確認できます。
したがって、
「海外に貸したお金は、まったく返済されていない」
という見方は正しくありません。
ただし、その年に貸したお金が、その年に返済されたわけではありません。円借款は返済期間が非常に長いため、20年、30年前に貸したお金の返済も含まれています。
また、この回収額は主に元本であり、利息収入は別に計上される場合があります。
直近8年間の内訳
「返済不要」は二国間贈与と国際機関向け贈与・拠出等、「新規貸付」は政府貸付等の実行額です。
債務救済は返済不要分の内数になることがあるため、別に足してはいません。

年 | 返済不要の支援 | 新規貸付等 | 元本等の回収 | うち債務救済 |
2017 | 約9,337 | 約11,380 | 約7,907 | 約21 |
2018 | 約8,759 | 約10,306 | 約7,992 | 約26 |
2019 | 約9,167 | 約11,473 | 約7,907 | 0 |
2020 | 約8,534 | 約13,167 | 約7,145 | 0 |
2021 | 約10,057 | 約14,046 | 約6,791 | 0 |
2022 | 約10,844 | 約18,427 | 約7,250 | 約4 |
2023 | 約14,224 | 約19,506 | 約7,502 | 0 |
2024 | 約12,574 | 約17,622 | 約7,087 | 約148 |
2024年には、約1兆7,622億円の新規貸付等が行われる一方、約7,087億円が回収されています。
さらに、返済されない贈与・拠出等が約1兆2,574億円ありました。
これらの無償支援には、医療、学校、防災、食料、災害、難民支援などが含まれます。そのすべてが無駄というわけではありません。
しかし、年間1兆円を超える規模である以上、支援の必要性と成果を一件ずつ検証する必要があります。
債務免除はどの程度行われたのか
外務省によると、2003年度から2024年度までの公的債務免除は、累計約2兆2,996億円です。
その内訳は、
ODA債権:約1兆1,438億円
ODA以外の公的債権:約1兆1,558億円
となっています。
2011年度以降で金額が大きかった年度は次のとおりです。
年度 | 債務免除額 |
2011年度 | 約996億円 |
2012年度 | 約1,153億円 |
2013年度 | 約2,192億円 |
2016年度 | 約1,197億円 |
2024年度 | 約148億円 |
債務免除には、最貧国の再建、人道上の必要性、国際的な合意などの理由があります。
しかし、返済が難しい国に追加融資を行う場合には、
なぜ追加支援が必要なのか
今度は返済できる見込みがあるのか
再び債務免除になる可能性はないのか
貸付ではなく無償支援にすべき案件ではないのか
を国民に説明する必要があります。
調べて分かったこと――すべてが無駄遣いではなかった
私も当初、日本政府が海外へ出しているお金の多くは、返済されない支援なのではないかと思っていました。
しかし、実際に調べると、それは正確ではありませんでした。
日本の海外支援には、元本と利息が返済される円借款や政府貸付が多く含まれています。
JICAの2025年度決算では、概算で次の金額が計上されています。
貸付金の元本回収:約8,479億円
貸付金の利息収入:約1,615億円
新たな貸付による支出:約1兆9,260億円
元本と利息を合わせると、年間約1兆円規模の資金が戻っています。JICA・2025年度事業報告書
円借款によって道路、鉄道、港湾、空港、発電所などが整備されれば、日本企業の受注や海外進出、資源確保、外交、安全保障にも一定の効果があります。
したがって、日本政府が海外支援で、すべてでたらめなことをしているわけではないことは理解できました。
海外支援のすべてを「返ってこないばらまき」と表現するのは、事実とは違います。
ただし、問題がないわけではない
1.国別の返済状況が見えにくい
日本全体の貸付額、回収額、JICA全体の利息収入などは公表されています。
しかし、国民が本当に知りたいのは全体の合計だけではありません。
中国から、今年いくら返済されたのか
インドやインドネシアから、いくら返済されたのか
どの国に、あといくら貸付残高があるのか
国別の利息収入はいくらか
返済が遅れている国と金額はいくらか
返済猶予や債務免除をいくら行ったのか
こうした数字を国別・年度別にまとめた統一表は見当たりません。
情報がまったく存在しないというより、個別の円借款契約、国別の協力実績、JICA全体の決算、債務免除の実績などが、別々の資料に分散しています。
そのうえ、国別の利息収入、延滞額、個別事業の返済完了状況など、公開資料だけでは確認できない項目もあります。
2.上海浦東国際空港のODAは完済されたのか
例えば、中国の上海浦東国際空港に対する円借款について、事業内容や貸付契約額は確認できます。
しかし、
元本が全額返済されたのか
利息を含めて総額いくら返済されたのか
返済が完了したのは何年なのか
現在も返済中なのか
を国民が簡単に確認できる資料は見当たりません。
これは「返済されていない」という意味ではありません。
返済されている可能性があっても、その結果を国民が一目で確認できないことが問題なのです。
3.公開していることと、国民に伝わることは違う
政府側は、「決算書や統計資料で公開している」と説明するかもしれません。
しかし、何百ページもの資料や複数のウェブページを調べなければ分からない状態では、国民に十分説明しているとは言いにくいと思います。
貸した金額はニュースになりますが、返済された元本、受け取った利息、残っている債権、延滞額、免除額は、ほとんど報道されません。
これでは、多くの国民が「海外支援は全部返ってこない」と思ってしまうのも無理はありません。
海外融資が適切に行われ、実際に返済されているのであれば、詳しい数字を分かりやすく公開することは、政府にとっても不利ではないはずです。
むしろ、「海外支援はすべてばらまきだ」という誤解を解くことにつながります。
国別一覧を毎年公表するべきではないか
少なくとも、政府またはJICAは、次のような表を毎年公表するべきだと思います。
貸付先 | 新規貸付額 | 元本回収額 | 利息収入 | 年末貸付残高 | 延滞額 | 返済猶予額 | 債務免除額 |
中国 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 |
インド | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 |
インドネシア | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 |
バングラデシュ | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 |
その他 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 |
合計 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 |
さらに、主要事業については、次のような事業別一覧も必要です。
事業名 | 相手国 | 貸付総額 | 元本返済額 | 利息収入 | 未回収額 | 返済状況 |
上海浦東国際空港建設事業 | 中国 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | 完済・返済中・延滞 |
鉄道建設事業 | インド | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | 返済中 |
発電所建設事業 | インドネシア | ○億円 | ○億円 | ○億円 | ○億円 | 返済中 |
これなら、政府批判をする人も、政府を擁護する人も、同じ数字を基に議論できます。
日本国内との優先順位も考える必要がある
厚生労働省の調査では、日本の子どもの相対的貧困率は11.5%です。およそ9人に1人の子どもが相対的貧困状態にあります。
特に「大人が一人」の子育て世帯では、貧困率が44.5%に達しています。
また、経済的な理由で就学援助を受けている小中学生は、約130万人とされています。厚生労働省・国民生活基礎調査、こども家庭庁・こどもの貧困
こうした国内事情がある一方、2024年には、
返済されない海外支援:約1兆2,574億円
新たな海外貸付等:約1兆7,622億円
が実行されています。
海外支援をすべて止める必要はありません。
しかし、国内で食費、教育費、医療費に困っている子どもや家庭がいる以上、海外支援だけを聖域にすることも適切ではないと思います。
新規貸付や無償支援を一時的に抑え、回収した資金や利息の一部を国内へ回すという選択肢も、検討してよいのではないでしょうか。
ただし、回収した元本は再融資の原資になり、JICAにも調達金利や管理費があります。そのため、回収額のすべてを国内財源に使えるわけではありません。
少なくとも、
元本回収額と利息収入から、調達金利、管理費、貸倒れ、債務免除を差し引いた実質的な利益はいくらなのか。
を公表し、その一部を教育、子育て、生活支援へ還元できないか検討するべきだと思います。
私が問題にしたいのは、海外支援そのものではない
今回調べてみて、日本政府が海外支援で、すべてでたらめなことをしているわけではないと分かりました。
円借款は実際に返済され、日本には毎年多額の元本と利息が戻っています。
だから、海外支援そのものをすべて否定するつもりはありません。
しかし、返済されない支援、債務免除、返済困難国への追加支援、国別の回収状況が分かりにくいという問題は残っています。
海外支援そのものを否定するのではなく、日本の国民生活が苦しい現在、新規貸付と無償支援の規模を見直し、海外から回収した元本や利息の一部を、国内の子ども、教育、子育て、生活支援に還元できないだろうか。
これが、私が本当に問題提起したいことです。
「海外支援はすべてばらまきだ」と決めつけるのも正確ではありません。
一方で、「貸付だから問題ない」として、無条件に海外支援を拡大するのも違います。
必要なのは、貸した金額、返済された元本、受け取った利息、現在の貸付残高、延滞額、返済猶予額、免除額を国別に分かりやすく公表し、その数字を基に国内と海外への配分を考えることです。
日本には、本当にお金がないのか
ここで区別しなければならないのは、「日本政府の財政」と「日本という国全体の資産」です。
日本政府は多額の国債残高を抱え、社会保障費も増加しています。その意味では、政府の財政に余裕があるとはいえません。
しかし、日本企業、金融機関、政府、個人が海外に持つ資産から、海外が日本に持つ資産を差し引いた日本の対外純資産は、2024年末で約533兆円に達しました。
さらに2025年末には約562兆円まで増えています。財務省・対外資産負債残高、日本銀行・対外資産負債残高
つまり、日本は貧しい国になったわけではありません。
大企業や金融機関、海外資産を持つ層には大きな富があります。一方で、その利益や資産が国内の賃金、子育て、教育、地方経済へ十分に回っていないことが問題です。
日本には富がないのではなく、富のある場所と、生活の苦しさを感じている場所が大きく離れてしまった。
海外支援についても同じです。
支援をすべてやめるのではなく、返済状況と成果を明らかにし、必要な海外協力は続けながら、回収した資金や利益を日本の子どもや国民にも還元する。
今の日本に必要なのは、海外支援の全面否定ではなく、国民が納得できる透明性と、国内外のバランスを取り直すことではないでしょうか。
協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC 後藤友亮/GOTO YUSUKE
静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル 公式サイト:https://www.kakehasi.biz/





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