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  • 「税金は上がっただけではない──この10年で個人と中小企業まで広がった『取り漏らさない仕組み』」

    私が実際に35年あまり会社を経営し、何回も税務調査を経験してきた中で感じることがあります。 税率そのものが上がったこと以上に、税金を「取り漏らさない仕組み」が、この10年ほどで急速に強くなったのではないかということです。 税務調査だけではありません。 銀行口座、電子申告、マイナンバー、インボイス、海外資産や海外送金、電子取引など、以前なら把握しにくかったお金の流れまで、行政がデータとして把握できる時代になりました。 実際、国税庁もAIやビッグデータを利用し、申告漏れの可能性が高い納税者を抽出したり、徴収を効率化したりする方向を明確にしています。 つまり、「税務調査が怖くなった」というより、 国の税金を捕捉する能力そのものが、昔とは比較にならないほど高くなった と考える方が正確なのかもしれません。 そして興味深いのが、この変化が進んだ時期です。 2010年代には日本株が大きく上昇し、外国人投資家の存在感も高まりました。現在では外国法人等が日本株のおよそ3割を保有する状態が続いています。 その一方、日本では長期的に法人税率が引き下げられてきました。現在の普通法人の法人税率は23.2%です。 もちろん、 「外資や大企業を優遇するために、個人や中小企業から税金を取る政策に変えた」 と単純に断定することはできません。 しかし結果だけを見ると、私は少し違和感を覚えます。 企業には国際競争力や投資を呼び込むための環境を整える。 株式市場では株主価値を重視する。 その一方で、国内に暮らす個人や中小企業については、税金や社会保険料を含めて、お金の流れをより細かく把握し、確実に徴収する仕組みを作っていく。 結果として、日本の税制は「税率を上げる」だけではなく、「逃げ場をなくす」方向にも大きく進んできたように見えます。 私は、ここが非常に重要だと思います。 税金を正しく徴収すること自体は当然必要です。 しかし、国民の大部分を占める普通の会社員、自営業者、中小企業から、取れるだけ細かく取る仕組みを強化していけば、それが本当に日本経済を強くするのでしょうか。 手取りが減れば消費は弱くなります。 中小企業の余力が減れば、設備投資も賃上げも難しくなります。 個人が将来を不安に感じれば、お金を使わなくなります。 それでは国内経済はなかなか成長しません。 問題は「税金を取ること」そのものではありません。 集めた税金によって、国民や企業がさらに稼げる国を作れているのか。 私は、こちらの方がはるかに重要だと思います。 税金を細かく、確実に徴収する技術は、この10年で大きく進歩しました。 では同じ10年間で、 集めた税金を使って、日本人の所得や企業の成長力を高める技術は、それと同じだけ進歩したのでしょうか。 もし徴収能力だけが進歩し、国民を豊かにする能力が進歩していないのであれば、長期的には非常に危険です。 一番人数の多い一般国民と、日本経済を支える中小企業の余力を削り続ければ、最後には税金を取る相手そのものが弱ってしまうからです。 私は今、日本で本当に問われているのは、 「もっと税金を取れるか」ではなく、「取った税金で国民をもっと豊かにできるか」 ではないかと思っています。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 私が一番恐れていた「市場からの強制修正」

    まだ日本が完全に「市場から強制修正されている」段階に入った、と断定するには早いですが、ただ、その入口が思っていたより早く見えてきたとは言えると思います。 私が以前から最も警戒していたのが、「政府や日銀が自ら改革を決断する前に、市場から強制的に修正を迫られる」というシナリオでした。 国債金利や為替が先に動き、政策の自由度が失われていく。そうなれば、やりたくなくても利上げを迫られ、さらに進めば歳出削減まで避けにくくなります。 国債金利の上昇、銀行の貸出金利上昇、企業の借り換え負担、住宅ローン審査の厳格化。そして財政余力がなくなれば、補助金や公共事業にも影響が及ぶ。 私自身、この可能性は以前から考えていました。 ただ一つ想定外だったのは、そのスピードです。 もっと先の話だと思っていました。 ところが政策金利1%の段階ですでに1.75%、さらに最終2.5%という予測まで現実的な議論として出始めています。 もし今後、政府や日銀が「上げたいから上げる」のではなく、**「市場が許してくれないから上げざるを得ない」**状態になれば、意味はまったく違います。 それこそが、私が一番恐れていた**「市場からの強制修正」**です。 「この記事を読んだ人におすすめ」→ 関連記事件 結局、一番恐れていたシナリオか──日本は「滅びて目覚める」まで変われないのか? 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 日本政府が金利を決める時代から、市場に金利を決められる時代へ──長期金利3%目前、最終的に政策金利3%超えも見えてきた?

    以前の記事で私は、日本が改革や金融正常化を先送りし続ければ、いつか政府や日銀が自分たちのタイミングで政策を決めるのではなく、市場から強制修正を迫られる局面に入るのではないかと書きました。 しかし2026年8月現在、日本の10年国債利回りは3%目前まで上昇しています。 ここまで来ると、 「市場から強制修正されるかもしれない」 ではなく、 「すでに市場による修正が始まっているのではないか」 と見るべき段階に入ってきたように感じます。 日銀の政策金利はまだ約1%。 一方で、市場が決める10年国債金利は約3%目前です。 つまり、日銀がゆっくり政策金利を上げている間に、市場の長期金利が先に走り始めています。 もちろん、政策金利と長期金利は別物です。 それでも、日本が長年慣れてきた「超低金利を前提にした世界」が崩れ始めていることは間違いないでしょう。 さらに重要なのは、最終的な政策金利です。 現在の市場予想の中心が3%というわけではありません。 しかし、円安、物価上昇、原油高、賃金上昇、国債金利上昇が続けば、最終的に政策金利3%以上まで引き上げざるを得ないシナリオも、以前ほど非現実的ではなくなってきたと私は考えています。 市場に日銀が追いかけさせられる? 今回、私が最も注目しているのはここです。 普通なら、 日銀が政策金利を上げる↓市場金利が上がる というイメージがあります。 ところが現在は、 市場の長期金利が先に上昇する↓円安やインフレへの警戒が強まる↓日銀に追加利上げを求める圧力が強まる という逆方向の力も働き始めています。 つまり、 「日銀が市場を動かす」のではなく、「市場に日銀が追いかけさせられる」 状態です。 これは、私が以前から書いてきた市場からの強制修正そのものだと思います。 しかも景気が絶好調だからではない さらに厄介なのは、日本経済がものすごく強いから金利が上がっているわけではないことです。 本来なら、景気が弱ければ中央銀行は利上げを急ぎたくありません。 しかし、 円安物価上昇原油高国債金利上昇 が同時に進めば、景気が弱くても利上げを迫られる可能性があります。 これが日本にとって最も苦しいパターンです。 景気を守るためには金利を上げたくない。しかし円と物価を守るためには金利を上げなければならない。 政策の自由度がどんどん小さくなります。 ダラダラ先送りした「つけ」 私は、日本がこうなることを一番恐れていました。 金利が低く、円も比較的安定し、国債も問題なく消化されている間に、 財政改革社会保障改革成長戦略金融正常化 を少しずつ進めていれば、政府も日銀もある程度、自分たちのペースで修正できたはずです。 しかし痛みを伴う改革は政治的に難しい。 その結果、 「今すぐ困っていないから、もう少し先へ」 を長い間繰り返してきたように見えます。 ところが市場は政治の都合を待ってくれません。 あるところまでは何も起こらない。 しかし市場参加者の考え方が変わった瞬間、金利や為替は一気に動きます。 そうなると、 「いつ改革するか」 ではなく、 「今やらなければならない」 に変わります。 これこそが市場からの強制修正です。 政策金利3%になった日本は、今とはかなり違う もし将来、本当に政策金利が3%を超えるような世界になれば、日本社会への影響はかなり大きくなるでしょう。 住宅ローン金利は上昇します。 企業の借入金利も上がります。 借金の多い企業ほど厳しくなります。 不動産価格にも影響します。 国の利払い費も時間とともに増えていきます。 一方で、預金金利は上がり、銀行や保険会社などにはプラスになる部分もあります。 つまり日本は、 「金利はほぼゼロであることを前提にした社会」 そのものを作り直さなければならなくなります。 本当に怖いのは「3%」そのものではない 私は「政策金利は必ず3%になる」と言いたいわけではありません。 重要なのは数字そのものではありません。 問題は、 政府と日銀が、自分たちで修正の速度を決められるのか。 それとも、 市場が先に金利を動かし、その後を政府と日銀が追いかけることになるのか。 です。 私は後者のシナリオが、以前よりかなり現実味を帯びてきたと感じています。 日本は今、 「自分たちで痛みの大きさを決められる段階」から、「市場に痛みの大きさを決められる段階」へ 移り始めているのかもしれません。 そして長期金利3%突破は、その転換を象徴する数字になる可能性があります。 もしその後も金利上昇が止まらなければ、次に市場が見るのは、 「日銀はどこまで政策金利を上げざるを得ないのか」 でしょう。

  • 実は今回は、円が買われたというより、ドルが売られただけである。ドル円が158円台になったから円高になったのではない。

    ドル円は158円台へ。しかし「円高」になったとは言いにくい ドル円は一時158円台まで下がり、少し円高方向へ動きました。 しかし、ユーロやポンド、スイスフランなど、ほかの主要通貨に対しては、円はほとんど上昇していません。したがって今回の動きは、円そのものが強くなったというより、米ドルが世界的に下落した結果、ドル円だけが下がったと見るほうが正確です。 米財務省が長期国債の買い戻しを増額すると発表したことで米国の長期金利が低下し、ドルが広く売られました。実際、ドル指数も3カ月ぶりの安値圏まで下落しています。Reuters 私の見方では、今回の158円台は「円高への転換」ではなく、ドル安による一時的な円高に見える現象です。 本当に円が強くなったと判断するには、 ドル円だけでなく、ユーロ円やポンド円も下落する 日本の金利上昇や政策への信頼によって円が買われる 為替介入がなくても円高が継続する といった動きが必要です。 現時点では、ドルは少し弱くなりましたが、円の弱さそのものは、ほとんど改善していないと考えたほうがよいでしょう。 ドル円が158円台になったから円高になったのではない。今回は、円が買われたというより、ドルが売られただけである。

  • ドル円に騙されるな。円の価値は、むしろさらに悪化している

    ドル円だけを見ていると、「円安は少し落ち着いたのではないか」と感じるかもしれません。 しかし、ドル以外の通貨に目を向けると、状況はまったく異なります。 ユーロやスイスフランなどに対して、円の弱さは続いています。 つまり、ドル円が一定の水準に抑えられて見えるのは、円の価値が回復したからではありません。 為替介入やドル自体の弱さによって、ドル円の数字だけが表面上落ち着いて見えている可能性があるのです。 ドル円だけでは本当の円安は見えない 円とドルが同時に弱くなれば、ドル円のレートは大きく動かないことがあります。 しかし、それは円が強くなったことを意味しません。 例えば、円もドルもユーロやスイスフランに対して下落していれば、ドル円があまり変わらなくても、世界の中で見た円の価値は低下しています。 これは、体重計の数字だけを見て安心している間に、健康状態そのものが悪化しているようなものです。 数字が安定して見えることと、状況が改善していることは別問題です。 為替介入で止められるのは、表面上の動きだけ 政府や日銀が為替介入を行えば、ドル円の急激な上昇を一時的に抑えられる場合があります。 しかし、それだけで日本経済の成長力や国際競争力が回復するわけではありません。 金利差、財政への不安、輸入価格の上昇、海外への資金流出といった問題が残っている限り、円安の背景そのものは変わりません。 ドル円だけを抑えても、ほかの通貨に対して円が弱くなれば、日本人の海外での購買力は低下し続けます。 海外旅行、海外不動産、外貨建て資産、輸入品。 実際の生活や資産価値に影響するのは、ドル円の数字だけではなく、円が世界全体に対してどれだけの価値を持っているかです。 円の総合的な価値も低下している 円の価値を幅広い通貨との関係から捉える指標の一つが、実質実効為替レートです。 2026年の推移を見ると、 5月:66.03 6月:65.42 7月:65.04 と、低下が続いています。 つまり、ドル円の動きだけでは見えないところで、円の総合的な価値は下がっています。 本当に見るべきもの これから円安を判断するときに重要なのは、「ドル円が何円か」だけではありません。 ユーロ、スイスフラン、シンガポールドルなど、複数の通貨に対して円がどう動いているかを見る必要があります。 ドル円だけが抑えられていても、ほかの通貨に対する円安が進んでいれば、円の価値は回復していません。 むしろ、気づかないうちに悪化している可能性があります。 ドル円に騙されるな。円の価値は、むしろさらに悪化している。 これが、現在の為替市場を見るうえで見落としてはいけない現実ではないでしょうか。

  • 円キャリー、再燃余地高市積極財政で売り圧力。日本は「市場が許容する限界」を超え始めていないか

    「日本は自国通貨建てだから破綻しない」「国の借金は返さなくてもいい」という意見もあります。 実は、私も以前はその考え方にかなり近い立場でした。 日本は自国通貨である円を発行できます。国債の多くも円建てです。そのため、外貨建て債務を抱える国とは違い、形式的な意味での財政破綻は起こりにくい。 この説明には、私自身も納得していました。 しかし、改めてよく考えてみると、もっと重要なことがあります。 政策が現実に持続可能かどうかを、最後に制約するのは市場です。 その理論が正しいか間違っているかを、ここで争いたいわけではありません。 「日本は破綻しない」という理論が正しかったとしても、それだけで財政運営に限界がないことにはなりません。 たとえ形式的なデフォルトを避けることができても、市場が日本の財政運営に不安を感じ、日本国債を売り、円を売り始めれば、現実の世界では別の形で大きな問題が起きます。 国債が売られれば、金利が上がります。 円が売られれば、円安が進みます。 円安が進めば、輸入物価が上がります。 金利が上がれば、政府の利払い負担も増えます。 つまり、 「返せるか、返せないか」だけが問題ではありません。 重要なのは、 市場が、日本の財政をどこまで許容してくれるのか ということです。 「破綻しない」と「何をしても大丈夫」は全く違う ここは非常に重要です。 自国通貨建ての国債であれば、理論上は通貨を発行して返済することができます。 その意味では、日本が突然「円がなくなって国債を返せない」という形で破綻する可能性は低いでしょう。 しかし、それは、 国債をいくら発行しても問題ない という意味ではありません。 通貨を大量に発行すれば、円の価値が下がる可能性があります。 国債の供給が増え、市場が不安を感じれば、国債価格が下がり、金利が上がる可能性があります。 インフレが強まれば、国民の生活にも影響します。 つまり、デフォルトしなくても、 円安 インフレ 金利上昇 政府の利払い増加 という形で調整が起こることがあります。 「破綻しない」という一点だけを見て安心するのは、少し危険だと思うようになりました。 積極財政が正しいか間違っているかではない 現在、日本では積極財政をめぐって多くの議論があります。 「成長のためには財政出動が必要だ」 「将来への投資だから問題ない」 「これ以上、国債を増やすべきではない」 「財政規律を重視すべきだ」 それぞれに理由があります。 しかし私は今、 積極財政が正しいか、緊縮財政が正しいか という二択だけで考えることに、それほど意味はないと思っています。 積極財政そのものを否定しているわけでもありません。 防衛、エネルギー、インフラ、AI、半導体、科学技術、少子化対策など、日本の将来に必要な投資は当然あります。 重要なのは、 政府が必要だと考える支出の規模を、市場がどこまで受け入れるか です。 いくら政治家が「必要な投資だ」と説明しても、市場が日本の財政に対して不安を強めれば、別の反応が起こります。 市場は政府の説明を待ってくれない 市場には政治的な立場はありません。 積極財政派でもありません。 緊縮財政派でもありません。 日本を応援する義務もありません。 世界中の投資家は、 日本の借金はどこまで増えるのか。 金利上昇に耐えられるのか。 インフレは抑えられるのか。 日銀はどこまで国債市場を支えられるのか。 円の価値は維持できるのか。 日本国債を持ち続けるメリットはあるのか。 こうしたことを見ながら売買します。 そして条件が悪いと思えば、売ります。 政府が「大丈夫です」と発表するのを待ってはくれません。 だから私は、 市場は政治より早く動く と考えています。 円安だけなら説明はできる これまでの円安には、日米金利差という非常に大きな理由がありました。 日本の金利が低く、海外の金利が高ければ、円を調達して海外の高金利資産へ投資する動きが起きます。 いわゆる円キャリートレードです。 低金利の円で資金を借り、高い利回りが期待できる海外資産に投資する。 この取引が増えれば、円売り圧力になります。 そのため、 円安だけ を見て「日本への信認が失われた」と判断するのは早いと思います。 しかし、私が今後特に警戒したいのは別の組み合わせです。 「円安+国債金利上昇」が続くなら意味が変わる 日本国債が売られれば、国債価格は下落し、金利は上昇します。 通常、日本の金利が上がれば、円にとってプラス材料になる面があります。 ところが、 日本国債が売られて金利が上がっているのに、同時に円まで売られる という状態が継続するなら、注意が必要です。 これは単純な日米金利差だけではなく、 市場が日本に対して、以前より高いリスクを感じ始めている 可能性があるからです。 つまり市場が、 「日本国債を持つなら、もっと高い金利が必要だ」 「円を持つことにも以前よりリスクがある」 と考え始める状態です。 これが一時的な値動きなら、それほど大きな意味はないかもしれません。 しかし長期間続けば、話は変わります。 円キャリー再燃にも注意が必要 日本の金利が多少上がったとしても、海外との金利差が残り、さらに市場が 「円はまだ下がる」 と予想するなら、円キャリートレードが再び活発になる可能性があります。 さらに、 低金利だから円を売る という従来の理由に加えて、 日本の財政に不安があるから円を持ちたくない という理由まで加われば、円への売り圧力はより強くなります。 私は、この二つが同時に起こる状態を特に警戒しています。 一番怖いのは「政府が政策を選べなくなる」こと 市場の信認が保たれている間は、政府にはまだ選択肢があります。 景気が弱ければ財政出動する。 インフレが強ければ金融を引き締める。 税収が不足すれば歳出を見直す。 こうした判断ができます。 しかし、市場の不安が強くなると、 国債が売られる。 ↓ 金利が上がる。 ↓ 政府の利払い費が増える。 ↓ 財政がさらに悪化する。 ↓ 市場がさらに不安になる。 ↓ さらに国債が売られる。 という悪循環に入る可能性があります。 そうなると、政府は自由に政策を選べなくなります。 円安を止めるために利上げしたくても、急激に利上げすれば住宅ローン、企業融資、政府の利払いに大きな負担がかかります。 逆に、金利を抑え続ければ、円安やインフレがさらに進む可能性があります。 つまり、 利上げしても痛い。 利上げしなくても痛い。 という状況です。 私が一番恐れているのはここです。 市場が常に正しいわけではない もちろん、市場が常に正しいわけではありません。 短期的には投機で大きく動くこともあります。 パニックによって、本来の価値以上に売られることもあります。 そのため、一日の円安や一日の金利上昇だけを見て、 「日本はもう終わりだ」 と判断するのも間違いです。 重要なのは、 一時的な値動きではなく、傾向を見ること です。 特に、 円安と国債金利上昇が同時に、長期間続くかどうか。 私はここを見ていきたいと思っています。 今見るべきなのは「理論」より「価格」 私は今後、日本経済を見るうえで、少なくとも次の数字をセットで確認する必要があると思っています。 ドル円。 日本10年国債利回り。 30年・40年など超長期国債の利回り。 日銀の政策金利。 政府の国債費・利払い費。 そして、海外投資家の日本国債や円に対する姿勢です。 この数字を見れば、 市場が日本に対して何を感じ始めているのか が少しずつ見えてきます。 私の考えが変わった理由 以前の私は、 「日本は自国通貨建てなのだから、簡単には破綻しない」 という考え方にかなり納得していました。 今でも、その理論そのものを否定しているわけではありません。 ただ、今はその先を見るようになりました。 理論上、破綻しないことと、財政運営に限界がないことは全く別です。 たとえ形式的なデフォルトを避けられても、市場が円や日本国債に厳しい評価を下せば、金利や為替、物価を通じて政策は制約されます。 だから、 「市場の判断がすべて」 とまで言い切るより、 「政策が現実に持続可能かどうかを、最後に制約するのは市場」 と考える方が正確だと思います。 結論 積極財政が正しいか。 緊縮財政が正しいか。 日本の借金は返す必要があるのか。 日本は財政破綻するのか。 こうした議論には、それぞれ理論があります。 しかし、私が今もっとも重要だと思っているのは、そこではありません。 日本の政策を、実際にこの先も続けることができるのか。 その限界を最終的に示すのは、市場です。 国債金利が上がる。 円が売られる。 インフレが進む。 利払い費が増える。 こうした現実が積み重なれば、いくら理論上「問題ない」と説明しても、政策を修正せざるを得なくなります。 だから私は今、 理論上の正解より、市場の反応を見る。 という考え方に変わってきました。 そして、現在の日本を見るうえで一番重要な問いは、 日本は「市場が許容する限界」を超え始めていないか ということだと思います。 まだ「超えた」と断定する段階ではありません。 市場も間違えるため、短期的な値動きだけで判断するべきでもありません。 しかし、 円安と国債金利上昇が同時に、継続的に進み始めた場合は話が違います。 それは、市場から日本に向けられた重要な警告かもしれません。 政府が正しいと言うか。 経済学者が正しいと言うか。 積極財政派が正しいと言うか。 緊縮財政派が正しいと言うか。 それより先に、 市場が日本にどんな価格を付けているのか。 今は、そこを冷静に見る時期に入っているのではないでしょうか。 「この記事を読んだ人におすすめ」→ 関連記事 日本政府が金利を決める時代から、市場に金利を決められる時代へ──長期金利3%目前、最終的に政策金利3%超えも見えてきた? 長期金利が示す警告。日本はもう「何に使うか」が問われる時代へ 経済力の低下による円安と金利上昇

  • 円安と低賃金は誰のためか──高齢者と預貯金が多い日本が考えるべきこと

    円安になると、輸出企業は利益を出しやすくなります。 海外で得た売上を円に換算すると金額が増えるうえ、日本国内の人件費も海外から見れば割安になるからです。 例えば、年収400万円の従業員は、1ドル100円なら4万ドルですが、1ドル160円なら2万5,000ドルです。給料が変わらなくても、海外から見た人件費は大きく下がります。 その状態で人手不足を外国人労働者で補えば、企業は賃金を大幅に上げなくても事業を続けやすくなります。 つまり、円安と低賃金、外国人労働者の受け入れが組み合わさると、輸出企業にとっては利益を確保しやすい構造になります。 もちろん、政府が最初からそのために政策を進めているとは断定できません。また、輸出時の消費税還付も、仕入れ時に負担した消費税を戻す制度であり、それ自体を単純に企業への補助金と考えることはできません。 それでも結果として、輸出企業の利益が増える一方で、国民の賃金が上がりにくい構造が続いているように見えます。 しかし、日本は高齢者が多く、国民の預貯金も多い国です。 円安になれば、食料や燃料、原材料の輸入価格が上がります。年金生活者は収入が増えにくいため、物価上昇の影響を直接受けます。預貯金も金額は変わらなくても、買えるものが減れば実質的な価値は下がります。 例えば、1,000万円の預貯金は、1ドル=100円なら**10万ドル(=1,000万円相当)です。 しかし1ドル=160円になると、同じ1,000万円でも6万2,500ドル(=1ドル100円時の価値に換算すると625万円相当)**まで低下します。 つまり、海外から見た円の価値で考えると、 1,000万円 → 625万円相当 となり、375万円、約37.5%価値が下がったと表現できます。 1億円の不動産なら、→ 6,250万円相当 海外から見れば、円建て価格がまったく下がっていなくても、3,750万円、率にして37.5%価値が低下した計算になります。 反対に、円の価値が上がれば輸入品や燃料が安くなりやすく、年金や預貯金の購買力を守ることができます。さらに賃金が上がれば、働く世代の生活にも余裕が生まれます。 急激な円高は輸出企業や雇用に悪影響を与えるため、円高なら何でもよいわけではありません。 それでも、円安と低賃金で一部の企業の利益を支えるより、円の価値を守りながら賃金を上げ、国民全体の生活を豊かにする方向のほうが、日本の実情に合っているのではないでしょうか。 む「この記事を読んだ人におすすめ」→ 関連記事 超人手不足でも、なぜ日本の賃金は上がらないのか──外国人労働者で埋める 海外に出ると分かる円安の恐怖──2,800万円が、かつてなら1,400万円の感覚 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 金融政策の正常化の先に何が起きるのか─ 日本国民への負担を考える一つのシナリオ

    最近、日本の金利と円相場について考えているうちに、一つの気になるシナリオが見えてきました。 もちろん、これから必ず起きるという話ではありません。 しかし、日本が現在置かれている状況を考えると、可能性の一つとして知っておく必要はあると思います。 世界に広がった「安い円」 日本は長年、ほぼゼロに近い低金利政策を続けてきました。 その結果、日本円は世界の投資家や企業にとって、非常に安く借りられる通貨になりました。 低い金利で円を借り、それをドルなどに換えて、海外の株式、債券、不動産、事業などへ投資する。 これが、いわゆる「円キャリートレード」です。 正確な総額は、デリバティブ取引など表面から見えない部分が多いため、誰にも分かりません。 ただ、国際決済銀行(BIS)の統計などを見ると、海外の非銀行部門に供給されている円建て信用だけでも、数十兆円規模に達しています。 そのすべてが投機的な円キャリートレードではありませんが、世界中に相当な円建て債務が積み上がっていることは確かです。 円安を止めるために、利上げが必要になってきた 円安が続けば、海外から輸入する食料、燃料、原材料、製品、デジタルサービスなどの価格が上がります。 為替介入や政府の経済政策だけで、円安を長期的に止めることには限界があります。 そのため日銀には、金利を引き上げ、海外との金利差を縮めることが求められるようになりました。 しかし、ここで別の問題が起きます。 日銀が利上げをすると、円を借りるための費用が高くなります。 さらに円高が進めば、海外で円を借りて投資している企業やファンドにとって、円建て債務の現地通貨換算での返済負担が大きくなります。 例えば、1ドル160円のときに160億円を借りてドルへ換えると、1億ドルになります。 その1億ドルで海外資産を購入したとします。 その後、投資先の価格が変わらないまま、1ドル130円まで円高になった場合、その資産をすべて円へ戻しても130億円にしかなりません。 投資先の価格がまったく下がっていなくても、160億円の返済には30億円足りなくなります。 緩やかな円高なら正常化、急激な円高なら金融事故 時間をかけて円高が進むのであれば、借り手も為替ヘッジや資産売却によって対応できます。 ところが、日銀の利上げ、米国の利下げ、世界的な株安などが重なり、短期間に円が15%、20%と上昇すれば、状況は大きく変わります。 円建て債務を返済するため、海外の投資家が株式、債券、不動産、暗号資産などを売却し、ドルなどの外貨を円へ換える可能性があります。 その円買いがさらに円高を進め、別の借り手を追い詰めます。 資産の投げ売りが市場価格を下げれば、証拠金不足や強制決済が起こり、企業やファンドの破綻へ連鎖する可能性もあります。 2024年8月に世界の株式市場や暗号資産が急落した際にも、円キャリートレードの巻き戻しが一因になったと分析されています。 2024年8月の市場混乱は、円キャリートレードが急速に巻き戻されたときに何が起きるのか、その危険の一端を示したとも考えられます。 つ まり、これからの円高は、日本にとって単純に喜べるものではありません。 緩やかな円高なら金融政策の正常化。しかし、急激な円高がほかの金融不安と重なれば、日本が世界的な金融危機の発火点になる可能性もある。 これも、考えられる一つのシナリオです。 日本はさらに八方塞がりになる ここまで考えると、日本が非常に難しい立場にあることが分かります。 利上げをしなければ、円安と物価高が続く可能性があります。 しかし利上げをすれば、住宅ローンや企業の借入負担が増え、国債価格が下がり、将来的には国の利払いも増えていきます。 さらに急激な円高が起きれば、世界に積み上がった円建て債務の巻き戻しまで起こる可能性があります。 財政支出を増やせば国債と将来の負担が増え、減らせば社会保障や地方経済が苦しくなります。 円安を続ければ国民生活が苦しくなり、円高へ戻せば株価や輸出企業、海外事業の利益に逆風が吹きます。 日本は今、どちらへ動いても何らかの痛みが出る状態に近づいています。 一番「貧乏くじ」を引いているのは一般国民 そして、この状況で一番大きな負担を受けているのは、普通に働き、円で給料を受け取り、円で貯金してきた一般国民ではないでしょうか。 低金利や円安の恩恵を受けやすかったのは、海外で利益を得る大企業、株式や不動産を持つ人、外貨や金を持つ人、そして低い金利で大きな借入れができた人たちです。 一方、多くの一般家庭は、それほど多くの資産を持っていません。 預金通帳の1,000万円は、数字としては1,000万円のままです。 しかし、物価が上がれば買えるものは減ります。円安になれば、海外から見た価値も下がります。 本人が投資で損をしたわけでも、円キャリートレードで利益を得たわけでもありません。 それでも、食料、電気、ガソリン、保険料、税金などの上昇を通じて、これまでの政策の後始末を負担させられています。 目の前の痛みを先送りしてきた結果 もちろん、日本の問題がすべて政府や日銀だけの責任とは言えません。 人口減少、少子高齢化、資源の輸入依存、世界情勢の変化など、政策だけでは解決できない問題もあります。 しかし、低金利、金融緩和、円安、国債発行によって目の前の痛みを抑え、その間に産業、賃金、社会保障、財政の構造を十分に変えられなかったことも事実です。 長年にわたって問題を先送りしてきた結果、今は利上げをしても、利上げをしなくても痛みが出る状態になりました。 そして、その政策を決めたわけでも、そこから大きな利益を得たわけでもない一般国民が、物価高と円の価値低下という形で負担を受けています。 国は低金利と円安によって、企業、金融市場、そして財政を支えてきた。しかし、その代償として、円で働き、円で貯金してきた一般国民の購買力が削られてきた。 もし今後、急激な円高による世界的な金融混乱が起きれば、その対策にも再び公的資金や国の支援が使われる可能性があります。 利益を得た人は限られているのに、最後の損失は社会全体で負担する。 それでは結局、一般国民が一番大きな「貧乏くじ」を引くことになります。 これは未来を断定する話ではありません。 しかし、今までの国の政策が積み重なった先に、このようなシナリオが存在していることは、冷静に考えておく必要があると思います。 「この記事を読んだ人におすすめ」→ 関連記事 日本政府が金利を決める時代から、市場に金利を決められる時代へ──長期金利3%目前、最終的に政策金利3%超えも見えてきた? 長期金利が示す警告。日本はもう「何に使うか」が問われる時代へ。 経済力の低下による円安と金利上昇。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル 公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 日本には1京円近い金融資産がある。それでも円が売られ続ける理由――日本企業の視点はすでに「ワンワールド」

    日本は借金ばかりで、お金のない国のように語られることがあります。 しかし、2024年4月5日の衆議院財務金融委員会で、財務省が答弁した数字を見ると、まったく違う日本の姿が見えてきます。 家計の金融資産 2,141兆円 国内全体の金融資産 9,704兆円 対外純資産 418.6兆円 外貨準備 約189.7兆円 経常収支 20.6兆円の黒字 国内全体の金融資産は、ほぼ1京円です。 これだけの資産を持ち、経常収支も黒字であるなら、普通に考えれば円は強くなりそうです。 それにもかかわらず、なぜ円は売られ続けるのでしょうか。 調べていくと、その理由は単なる国の借金ではなく、企業や投資家のお金が国境を越えて動く「市場原理」にあることが見えてきます。 1京円は、日本政府が自由に使えるお金ではない 最初に理解しておかなければならないのは、9,704兆円という数字の意味です。 これは、日本政府が持っている預金や、すぐに使える現金ではありません。 家計、企業、銀行、保険会社、年金基金、政府など、日本国内の全部門が持つ金融資産を合計した数字です。 また、金融資産には必ず相手側があります。 例えば、銀行預金は家計にとって資産ですが、銀行にとっては返済する義務のある負債です。 国債も、それを保有する銀行や個人には資産ですが、政府には負債です。 株式も、投資家には資産ですが、企業側から見れば資金を出してもらった証しです。 したがって、9,704兆円という数字には、国内の取引による重複が含まれています。 「日本政府が1京円を自由に使える」という意味ではありません。 それでも、日本国内に莫大な資金が存在していることは事実です。 日本が本当にお金のない国なら、これほど大きな家計金融資産や海外資産を持つことはできません。 日本は海外にも莫大な資産を持っている 国会答弁で示された対外純資産418.6兆円は、2022年末の数字です。 その後も日本の海外資産は増え、2025年末には、 対外資産 約1,806兆円 対外負債 約1,244兆円 対外純資産 約562兆円 となりました。 対外純資産とは、日本の企業、政府、金融機関、個人などが海外に持つ資産から、外国側が日本に持つ資産を差し引いた金額です。 つまり、日本は国全体として見れば、海外からお金を借りる側ではなく、海外に多くの資産を持つ債権国です。 ただし、ここにも重要な点があります。 対外資産のすべてを日本政府が自由に売却できるわけではありません。 海外工場、海外子会社、外国株、外国債券、海外への融資など、その多くは企業や金融機関などが保有しています。 日本全体では豊かでも、政府、企業、家計の財布は別なのです。 資産の「残高」と、為替を動かす「流れ」は違う 円相場を考えるとき、最も重要なのはここだと思います。 対外純資産は、長年かけて積み上げてきた資産の「残高」です。 一方、為替相場を動かすのは、その瞬間に市場で起きている円売りと円買いという「流れ」です。 日本にどれだけ海外資産があっても、現在の市場で円を売る人の方が多ければ、円は下がります。 反対に、海外資産がそれほど多くなくても、その国の通貨を買いたい人が増えれば、通貨は上がります。 つまり、 国がどれだけ資産を持っているか だけではなく、 今、世界のお金がどちらへ動いているか によって為替は決まります。 企業はお金を寝かせておけない 企業は、手元にあるお金をそのまま寝かせておくわけにはいきません。 設備投資、新しい事業、企業買収、研究開発、金融商品の購入などに使い、将来の利益を生み出す必要があります。 もし日本国内よりも海外の方が成長性や利益率が高ければ、企業が海外へ投資するのは当然です。 日本国内では、 人口が減少している 国内市場の大幅な拡大を期待しにくい 人手不足が進んでいる 税金や社会保険料の負担が重い 規制や行政手続きが複雑 エネルギー価格が高い 新しい事業への投資機会が限られている といった問題があります。 一方、海外には、人口が増え、所得が上がり、住宅、道路、工場、通信、金融、消費市場などが急速に拡大している国があります。 そのような国では、日本では考えられないほど高い成長率や投資利回りを期待できる場合があります。 企業が成長する市場へ向かうのは、愛国心がないからではありません。 企業として生き残り、利益を上げるための合理的な判断です。 企業の視点は「日本」ではなく「ワンワールド」 かつては、日本企業が日本国内で生産し、日本人を雇い、日本国内で商品を販売することが一般的でした。 しかし、現在の企業経営は国単位ではありません。 本社が日本にあっても、 資金調達は米国 生産はアジア 開発は欧州 販売は世界各国 利益の再投資先は成長国 ということが普通に行われています。 企業は、 「日本のために、国内でお金を使うべきか」 ではなく、 世界のどこで資金を使えば、最も成長し、最も利益を生み出せるのか という基準で判断します。 国には国境がありますが、お金には、ほとんど国境がありません。 企業の考え方はすでにグローバルであり、その視点は世界全体を一つの経済圏として見る「ワンワールド」になっています。 日本企業であっても、日本は世界中にある投資先の一つにすぎません。 海外より日本の方が不利なら、企業のお金は海外へ向かいます。 これは企業の責任というより、日本も世界中の投資先と比較される時代になったということです。 日本から海外へ向かう投資が円売りにつながる 日本企業が海外に工場を建設したり、海外企業を買収したりする場合、一般的には外貨が必要になります。 そのため、円を売ってドルなどを買う取引が発生すれば、円安要因になります。 2025年の国際収支では、日本から海外への直接投資による資産増加は約32.8兆円でした。 一方、海外から日本への直接投資による負債増加は約7.2兆円でした。 単純比較には注意が必要ですが、日本から海外へ向かう直接投資の方がはるかに大きいことが分かります。 これに加えて、金融機関や投資家による外国債券の購入、個人による米国株や海外投資信託の購入などもあります。 ただし、すべての海外投資が、その瞬間の円売りになるわけではありません。 すでに海外で保有している外貨を使う場合や、海外で資金調達する場合、為替ヘッジをする場合には、円相場への直接的な影響は小さくなります。 それでも長期的には、日本の資金が海外へ向かい、海外で蓄積される構造が続いていることは確かです。 経常収支が黒字でも、円が買われるとは限らない 日本は経常収支が黒字だから、本来なら円高になるはずだと考えられます。 しかし、現在の経常黒字の中心は、かつてのような輸出による貿易黒字だけではありません。 海外子会社からの配当、外国株や外国債券の利子などによる第一次所得収支の黒字が大きな割合を占めています。 2025年の第一次所得収支は、約41.6兆円の黒字でした。 ところが、海外子会社が稼いだ利益のすべてが、日本へ送金されるわけではありません。 現地で稼いだ利益を、そのまま現地の工場建設や事業拡大に使うことがあります。 国際収支統計では、このような利益も「再投資収益」として日本の所得に計上されます。 しかし、実際には外貨を円へ交換していないため、円買いは発生しません。 つまり、 統計上は日本の黒字でも、為替市場では円が買われていない ということが起こります。 これが、「経常黒字なのに円安」という現象を理解する重要な部分です。 円安が海外資産の円換算額を増やしている 日本の海外資産が増えている理由には、実際の海外投資だけでなく、円安による評価額の増加もあります。 例えば、海外に1億ドルの資産がある場合、 1ドル100円なら100億円 1ドル160円なら160億円 と評価されます。 海外資産そのものが増えていなくても、円が安くなるだけで、円換算した資産額は増えます。 そのため、 対外純資産が増えたから円が強い とは限りません。 反対に、円安によって対外純資産の円換算額が膨らんでいる面もあります。 日本銀行も、円安が第一次所得収支の円換算額を押し上げる要因になっていると説明しています。 円安で利益を得る側と、苦しくなる側 円安は、日本全体に同じ影響を与えるわけではありません。 海外に工場、子会社、株式、債券などを持つ企業や投資家にとっては、海外利益の円換算額が増えます。 一方で、海外資産をほとんど持たない家計は、輸入物価の上昇による影響を強く受けます。 ガソリン 電気やガス 食料品 原材料 医薬品 海外のソフトウェアやデジタルサービス などの価格が上がるからです。 つまり、円安になるほど、 海外資産を持つ側には利益が生まれ、円の預金や給料を中心に生活する側には負担が増える という差が生まれやすくなります。 日本全体では海外資産が増えて豊かに見えても、その利益が国民全体へ均等に届くわけではありません。 ここに、「日本は豊かな国なのに、生活は豊かに感じられない」という矛盾があります。 短期的に円安へ効くのは利上げ 円を買ってもらうには、 「円を持つ方が有利だ」 と思わせる必要があります。 短期的に最も直接的な方法の一つが、日銀による利上げです。 円の金利が低く、海外の金利が高ければ、投資家は低金利の円を売り、高金利の通貨や資産を買います。 日本と海外の金利差が縮まれば、この円売りを弱める効果が期待できます。 ただし、利上げをすれば必ず円高になるわけではありません。 市場がすでに利上げを予想していれば、実際に利上げしても円が上がらないことがあります。 また、日本経済の成長力や財政への不安が強まれば、金利が上がっても円が買われない可能性があります。 さらに、利上げには副作用があります。 住宅ローンの返済負担が増える 企業の借入金利が上がる 中小企業の資金繰りが厳しくなる 国債の利払い費が増える 設備投資や消費が弱くなる 景気が悪化する可能性がある 日本は長い間、低金利を前提として国、企業、家計の仕組みをつくってきました。 そのため、急激に金利を上げることは簡単ではありません。 為替介入だけでも流れは変えられない 日本政府は巨額の外貨準備を持っているため、ドルを売って円を買う為替介入ができます。 介入によって、急激な円安を一時的に止めることは可能です。 しかし、海外との金利差や企業の海外投資など、円が売られる根本原因が残っていれば、介入後に再び円安へ戻る可能性があります。 外貨準備にも限りがあります。 大規模な介入を続ければ、市場から「日本は円安を止めるために外貨準備を減らしている」と見られ、逆に投機的な円売りを招く可能性もあります。 為替介入は急激な動きを抑えるための手段であり、日本の投資環境そのものを変える政策ではありません。 本当に必要なのは、日本でお金を使う理由をつくること 企業に対して、 「日本企業なのだから、日本国内へ投資してください」 と求めるだけでは、お金は戻ってきません。 企業は世界中の投資先を比較しています。 したがって、日本は世界の中で、 日本でお金を使う方が有利だ と思われる環境をつくらなければなりません。 具体的には、 国内設備投資への分かりやすい税制優遇 成長産業への長期的で一貫した政策 安定したエネルギー供給と価格の引下げ 規制や行政手続きの簡素化 税制や社会保険制度の予見可能性 海外から人材、技術、資金を受け入れる環境 海外利益を日本へ戻しやすくする制度 円預金や円建て資産の利回り改善 日本国内で新しい企業が成長できる環境 将来不安を減らし、家計のお金が消費や投資へ回る仕組み などが必要になります。 円安を止めるというより、 円を売らない方が有利で、円を買った方が利益になる国 をつくる必要があるのです。 日本は資産がないのではなく、国内で回せていない 日本には、今も莫大な家計金融資産と海外資産があります。 決して、すぐに外貨がなくなって破綻するような国ではありません。 しかし、日本国内に投資する魅力が低ければ、その資産は海外へ向かいます。 企業も個人も、自分のお金を守り、増やすために合理的な判断をします。 日本国内の預金金利が低く、海外の方が成長性や利回りが高ければ、海外へ資金を移すのは自然な行動です。 問題は、企業や個人が海外へ投資することではありません。 世界を一つの市場として動くお金に対して、日本が選ばれるだけの条件を示せていないことです。 円安問題の本当の結論 現在の円安は、日本が単純に貧しくなったから起きているわけではありません。 日本には巨額の資産があります。 しかし、そのお金を所有しているのは政府だけではなく、企業、金融機関、年金基金、家計などです。 そして、それぞれが自分にとって最も有利な場所へ資金を動かします。 企業の視点はすでに日本国内ではなく、世界全体を一つの市場として見る「ワンワールド」です。 したがって、円を本当の意味で強くするには、 利上げによって「円を持つ意味」をつくり、国内成長によって「円を使う意味」をつくる この両方が必要です。 日本はお金がない国ではありません。 巨額のお金を持ちながら、そのお金を国内で十分に回す理由をつくれていない国なのだと思います。 世界が一つの市場になった現在、日本企業に国内投資を求めるだけでは解決しません。 日本自身が、世界中にある投資先の中から選ばれる国になる必要があります。 【参考資料】 衆議院・第213回国会 財務金融委員会 第14号(2024年4月5日) 財務省・2025年末本邦対外資産負債残高 財務省・2025年中の国際収支状況 日本銀行・資金循環統計に関するFAQ 内閣府・対日直接投資推進 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 日本には1京円近い金融資産がある事実。それでも円が売られ続けるのは、理由

    簡単にまとめました。 2024年4月の国会答弁で、日本には次の資産があることが示されました。 家計金融資産 2,141兆円 国内全体の金融資産 9,704兆円 対外純資産 418.6兆円 外貨準備 189.7兆円 経常収支 20.6兆円の黒字 日本全体で見れば、決してお金のない国ではありません。それでも円安になるのは、為替が資産総額ではなく、実際の円売り・円買いによって動くからです。 企業は世界全体で投資先を選ぶ 企業はお金を寝かせておけません。日本より海外の方が成長性や利回りが高ければ、円を外貨に換えて海外で運用します。 海外で得た利益も、現地で再投資すれば円には戻りません。そのため、日本の海外資産が増える一方で、円安が進むこともあります。 現在の企業にとって、投資先を考える視点は日本国内だけではありません。世界全体を一つの市場として見る「ワンワールド」です。 企業は愛国心ではなく、 世界のどこで資金を使えば、最も成長し、利益を生み出せるか で判断します。これは企業として当然の市場原理です。 円を強くするには 短期的に円安へ最も直接効くのは、利上げです。円の金利を上げれば、円を売って高金利の外貨を買う動きを弱められます。 ただし、利上げだけでは根本的な解決になりません。 日本国内を、海外より利益を生み出せる投資先にする必要があります。 利上げによって「円を持つ意味」をつくり、国内の成長によって「円を使う意味」をつくる。 日本は資産がない国ではありません。巨額の資産を持ちながら、そのお金を国内で十分に回せていない国なのだと思います。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • マレーシアもモンゴルも活気がある──海外から戻って感じた、今の日本

    ウランバートルから日本へ戻り、成田空港で偶然、以前から知っている会社経営者の方と会いました。 その方もちょうど海外から帰国したところでした。 少し話をすると、最初に出てきたのが、 「向こうは凄く活気があった」 という言葉でした。 そこから自然と、今の日本で会社を経営する難しさについての話になりました。 税金や社会保険をはじめとする会社側の負担、人手不足、せっかく採用しても人が入ったり辞めたりを繰り返す難しさ、そして年々増えていくさまざまな制度やルールへの対応。 話を聞いていると、これまでと同じ経営のやり方では難しくなってきている、ということなのだと思います。 そして、私が特に考えさせられたのは、その方の会社が決して商売に苦戦している会社ではないことです。 むしろ業界では非常に人気があり、多くのお客さんから支持されている会社です。 それほど商売がうまくいっている会社であっても、人手不足や人材の定着、税金や社会保険、さまざまな制度への対応など、抱えている悩みは一般的な中小企業とそれほど変わらない。 ここに、今の日本の経営環境を象徴するものがあるように感じました。 「売れないから苦しい」のではなく、「売れていても経営が楽にならない」。 売上が伸びれば人が必要になる。 人が増えれば、採用や教育、労務管理、社会保険などの負担も増える。 利益が増えれば税負担も増え、会社が大きくなるほど、本来の商売以外に経営者が考えなければならないことも増えていきます。 そこで私も、 「モンゴルはどうだった?」 と聞かれました。 私は迷わず、 「凄い活気ですよ」 と答えました。 私は現在、第一線の経営からは退いています。 それでも日本にいると、どこか息苦しさを感じることがあります。 一方、モンゴルは日本より不便なこともたくさんあります。 それなのに、不思議なくらいその息苦しさを感じません。 街には新しい建物が次々と建ち、人が動き、商売が生まれ、「これから国が大きくなっていく」というエネルギーがあります。 今回、たまたまテコンドーの国際大会を見る機会もありました。 そこでも各国から来た人たちの勢いや熱気を目の当たりにし、逆に日本からは以前のような勢いをあまり感じられなかったことが、私には印象的でした。 もちろん、日本には日本の素晴らしさがあります。 治安、インフラ、サービス、技術力。 そして海外へ出て改めて感じるのが、「日本」という名前が持つ信用の大きさです。 私自身も長く会社を経営してきましたが、外の世界を知れば知るほど、日本だけで売上を増やし、会社をどこまでも大きくしていくことが、本当に正解なのだろうかと引退前に考えていました。 だからといって、日本を捨てればいいという話ではありません。 むしろ、 日本法人は小さくても残し、「日本企業」という信用やブランドを大切にする。 その一方で、新しい投資や事業、成長については海外にも目を向ける。 そんな考え方があってもいいのではないでしょうか。 日本の信用は、世界に出れば大きな武器になります。 だから、「日本の信用は残す。しかし、成長する場所まで日本だけに限定しない」という選択です。 海外から帰ってきた経営者と、モンゴルから帰ってきた私。 成田空港で偶然会って話してみると、違う国を見てきた二人が、同じように日本との「活気の差」を感じていたことが、とても印象に残りました。 繰り返しになりますが、その方は商売がうまくいっていない経営者ではありません。 人気があり、お客さんにも支持されている会社の経営者です。 それでも、小さな中小企業と同じような悩みを抱えている。 私は、この現実こそ今の日本を考えるうえで重要なのではないかと思います。 日本は今でも豊かで、安全で、便利な国です。 しかし、 国が豊かであることと、そこに「活気」があることは、必ずしも同じではありません。 今の日本に必要なのは、単に経済の数字を良くすることだけではなく、 「頑張れば、これからもっと良くなる」 と経営者や若い人たちが自然に思える空気なのかもしれません。 これは特定の経営者の考えを紹介したり、日本を批判したりするための話ではありません。 成田空港での何気ない会話をきっかけに、海外と日本の両方を見てきた私自身が、改めて感じたことです。 日本を捨てるのではなく、日本の信用を大切にしながら、世界の活気も取りに行く。 これからは、そんな生き方や経営の形が、一つの選択肢になっていくのではないでしょうか。 「この記事を読んだ人におすすめ」→ 関連記事 日本では住宅が売れず、モンゴルでは建設が追いつかない。 モンゴルはインフレに悩み、日本は低成長に悩む 「Eco Tower Oneだけじゃない──建設ラッシュで変貌するウランバートル モンゴルについて、現地経験をもとにサポートします モンゴルでの不動産購入、現地法人、銀行口座、公証手続き、通訳、リフォーム、長期滞在などについて、私たちが実際に経験した内容をもとにご相談をお受けしています。 まずは、お困りのことや知りたいことをお問い合わせフォームからお知らせください。 ※相談内容を確認したうえで、対応の可否や費用をご案内します。 協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC  後藤友亮/GOTO YUSUKE 静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル     公式サイト:https://www.kakehasi.biz/

  • 家も車も「持った後」が安い──モンゴルで実際に暮らして驚いた維持費です。

    90㎡マンションの管理費3,000円〜、車検2,500円──モンゴルで実際に払った維持費 日本とはこんなに違う──モンゴルで家と車を持って分かった「維持費の安さ」 モンゴルは物価より「固定費」が安い──家を所有して分かったこと 家を持っても固定資産税ほぼ0円?──モンゴル生活で実際に払ったお金 「買えるか」より「持ち続けられるか」──日本とモンゴル、家と車の維持費の違い なぜモンゴルでは家と車を持ちやすいのか──実際に暮らして分かった固定費の違い 日本とモンゴルでは、家や車を所有するために必要な維持費が大きく異なります。 ここでは、ネット上の平均金額ではなく、私自身がモンゴルで実際に生活し、支払った費用を紹介します。 90㎡マンションの1か月の維持費 管理費(水道代込み):約3,000〜5,000円 電気代:約1,000〜 2,500円 暖房代:基本的に使い放題 固定資産税:ほぼ0円 モンゴルでは、ウランバートル市内で所有する一定数までのマンションが固定資産税の免税対象になる制度があります。 そのため、少なくとも私が所有しているマンションについては、日本のような大きな固定資産税の負担はありません。 車の維持費 自動車関係の税金・道路使用料:日本と比べると、ほぼ0円と感じる水準 車検:約2,500円 モンゴルにも自動車税などの制度はありますが、日本と比べると負担は非常に小さいと感じます。 税金と社会保険料 消費税にあたるVAT:基本10% E-barimtによる還元:約2%相当 実質的な消費税負担:約8% 従業員本人の社会保険料:給与の約11〜11.5% 会社側の社会保険料負担:約12.5〜14.5% モンゴルは、すべての物価が安いわけではありません。 輸入品や日本食、品質の高い商品などは、日本より高い場合もあります。 しかし、マンションや車を所有した後に毎年、毎月かかる固定的な維持費については、日本よりもかなり低く抑えられると、実際に生活して感じています。 ※金額は私自身が実際に支払った体験に基づくものです。地域、建物、管理会社、車種、為替レートなどによって異なります。 あわせて読みたい モンゴルの気候が変わってきた?──突然の豪雨で気になった「地下駐車場」 モンゴルの燃料事情から見えた「資源を海外に頼る国」の現実 90%以上が日本車だったモンゴルで起きている変化 大草原の絆(Bond of the Steppe) モンゴルのガソリン不足、1週間前から給油まで3〜4時間待ち 「日本からみたら、モンゴルは国民ファースト」 日本とモンゴルの税金比較 モンゴルはインフレに悩み、日本は低成長に悩む モンゴルについて、現地経験をもとにサポートします モンゴルでの不動産購入、現地法人、銀行口座、公証手続き、通訳、リフォーム、長期滞在などについて、私たちが実際に経験した内容をもとにご相談をお受けしています。 まずは、お困りのことや知りたいことをお問い合わせフォームからお知らせください。 ※相談内容を確認したうえで、対応の可否や費用をご案内します。

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