金融政策の正常化の先に何が起きるのか─ 日本国民への負担を考える一つのシナリオ
- 後藤 友亮

- 29 分前
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最近、日本の金利と円相場について考えているうちに、一つの気になるシナリオが見えてきました。
もちろん、これから必ず起きるという話ではありません。
しかし、日本が現在置かれている状況を考えると、可能性の一つとして知っておく必要はあると思います。
世界に広がった「安い円」
日本は長年、ほぼゼロに近い低金利政策を続けてきました。
その結果、日本円は世界の投資家や企業にとって、非常に安く借りられる通貨になりました。
低い金利で円を借り、それをドルなどに換えて、海外の株式、債券、不動産、事業などへ投資する。
これが、いわゆる「円キャリートレード」です。
正確な総額は、デリバティブ取引など表面から見えない部分が多いため、誰にも分かりません。
ただ、国際決済銀行(BIS)の統計などを見ると、海外の非銀行部門に供給されている円建て信用だけでも、数十兆円規模に達しています。
そのすべてが投機的な円キャリートレードではありませんが、世界中に相当な円建て債務が積み上がっていることは確かです。
円安を止めるために、利上げが必要になってきた
円安が続けば、海外から輸入する食料、燃料、原材料、製品、デジタルサービスなどの価格が上がります。
為替介入や政府の経済政策だけで、円安を長期的に止めることには限界があります。
そのため日銀には、金利を引き上げ、海外との金利差を縮めることが求められるようになりました。
しかし、ここで別の問題が起きます。
日銀が利上げをすると、円を借りるための費用が高くなります。
さらに円高が進めば、海外で円を借りて投資している企業やファンドにとって、円建て債務の現地通貨換算での返済負担が大きくなります。
例えば、1ドル160円のときに160億円を借りてドルへ換えると、1億ドルになります。
その1億ドルで海外資産を購入したとします。
その後、投資先の価格が変わらないまま、1ドル130円まで円高になった場合、その資産をすべて円へ戻しても130億円にしかなりません。
投資先の価格がまったく下がっていなくても、160億円の返済には30億円足りなくなります。
緩やかな円高なら正常化、急激な円高なら金融事故
時間をかけて円高が進むのであれば、借り手も為替ヘッジや資産売却によって対応できます。
ところが、日銀の利上げ、米国の利下げ、世界的な株安などが重なり、短期間に円が15%、20%と上昇すれば、状況は大きく変わります。
円建て債務を返済するため、海外の投資家が株式、債券、不動産、暗号資産などを売却し、ドルなどの外貨を円へ換える可能性があります。
その円買いがさらに円高を進め、別の借り手を追い詰めます。
資産の投げ売りが市場価格を下げれば、証拠金不足や強制決済が起こり、企業やファンドの破綻へ連鎖する可能性もあります。
2024年8月に世界の株式市場や暗号資産が急落した際にも、円キャリートレードの巻き戻しが一因になったと分析されています。
2024年8月の市場混乱は、円キャリートレードが急速に巻き戻されたときに何が起きるのか、その危険の一端を示したとも考えられます。
つ
まり、これからの円高は、日本にとって単純に喜べるものではありません。
緩やかな円高なら金融政策の正常化。しかし、急激な円高がほかの金融不安と重なれば、日本が世界的な金融危機の発火点になる可能性もある。
これも、考えられる一つのシナリオです。
日本はさらに八方塞がりになる
ここまで考えると、日本が非常に難しい立場にあることが分かります。
利上げをしなければ、円安と物価高が続く可能性があります。
しかし利上げをすれば、住宅ローンや企業の借入負担が増え、国債価格が下がり、将来的には国の利払いも増えていきます。
さらに急激な円高が起きれば、世界に積み上がった円建て債務の巻き戻しまで起こる可能性があります。
財政支出を増やせば国債と将来の負担が増え、減らせば社会保障や地方経済が苦しくなります。
円安を続ければ国民生活が苦しくなり、円高へ戻せば株価や輸出企業、海外事業の利益に逆風が吹きます。
日本は今、どちらへ動いても何らかの痛みが出る状態に近づいています。
一番「貧乏くじ」を引いているのは一般国民
そして、この状況で一番大きな負担を受けているのは、普通に働き、円で給料を受け取り、円で貯金してきた一般国民ではないでしょうか。
低金利や円安の恩恵を受けやすかったのは、海外で利益を得る大企業、株式や不動産を持つ人、外貨や金を持つ人、そして低い金利で大きな借入れができた人たちです。
一方、多くの一般家庭は、それほど多くの資産を持っていません。
預金通帳の1,000万円は、数字としては1,000万円のままです。
しかし、物価が上がれば買えるものは減ります。円安になれば、海外から見た価値も下がります。
本人が投資で損をしたわけでも、円キャリートレードで利益を得たわけでもありません。
それでも、食料、電気、ガソリン、保険料、税金などの上昇を通じて、これまでの政策の後始末を負担させられています。
目の前の痛みを先送りしてきた結果
もちろん、日本の問題がすべて政府や日銀だけの責任とは言えません。
人口減少、少子高齢化、資源の輸入依存、世界情勢の変化など、政策だけでは解決できない問題もあります。
しかし、低金利、金融緩和、円安、国債発行によって目の前の痛みを抑え、その間に産業、賃金、社会保障、財政の構造を十分に変えられなかったことも事実です。
長年にわたって問題を先送りしてきた結果、今は利上げをしても、利上げをしなくても痛みが出る状態になりました。
そして、その政策を決めたわけでも、そこから大きな利益を得たわけでもない一般国民が、物価高と円の価値低下という形で負担を受けています。
国は低金利と円安によって、企業、金融市場、そして財政を支えてきた。しかし、その代償として、円で働き、円で貯金してきた一般国民の購買力が削られてきた。
もし今後、急激な円高による世界的な金融混乱が起きれば、その対策にも再び公的資金や国の支援が使われる可能性があります。
利益を得た人は限られているのに、最後の損失は社会全体で負担する。
それでは結局、一般国民が一番大きな「貧乏くじ」を引くことになります。
これは未来を断定する話ではありません。
しかし、今までの国の政策が積み重なった先に、このようなシナリオが存在していることは、冷静に考えておく必要があると思います。




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