【実録】旅費規程のデメリット――私がやめた理由と、35年以上の経営で変わった考え方

ネットでは、旅費規程を活用した節税方法がよく紹介されています。
最近、私も旅費規程について相談を受ける機会がありました。
実は、私自身も約10年前に会社で取り組んでいました。
社員と会社の両方にとって、少しでも良い仕組みになればと考えて始めたものです。
実際に運用し、税務調査も経験しました。
私の会社では、旅費規程に基づく支給については否認されませんでした。
それでも、途中でやめました。
率直に言えば、「しっかり運用することはできる。
しかし、ここまで手間をかけるほど、費用対効果が高いのだろうか」と感じたからです。
今回相談を受けたことをきっかけに、ネットで多く紹介されているメリットだけでは見えにくい、運用上の負担や、私がやめた理由を実体験として残しておこうと思いました。
社員の手取りと会社の負担を考えて始めた
きっかけは、給与を上げても、その金額がそのまま社員の手取りにはならないということでした。
税金や社会保険料の負担があるため、会社が給与を増やしても、社員の手取りが同じだけ増えるわけではありません。会社側にも社会保険料などの負担があります。
「同じお金を使うのであれば、社員にも会社にも、もう少し良い方法はないか」
そう考えて取り組んだのが、旅費規程の整備でした。
私の会社は比較的遠方の仕事が多く、実際に移動や出張が発生していました。
そうした業務の実態があったことも、導入した理由です。
なお、旅費規程を作れば、給与の一部を自由に非課税の旅費へ変えられるということではありません。
実際の出張と、その内容に見合った合理的な支給額であることが前提です。
一番大きかったのは「給料が安い会社」になってしまうこと
運用してみて、一番大きいと感じたのは、社員から見た給与の印象でした。
会社が社員への支給総額を考える中で、昇給に使う予定だった予算を出張に応じた旅費の支給に充てたり、給与と旅費の構成を見直したりすると、給与そのものの額面は増えない、あるいは下がることになります。
ただし、給与を下げることは、旅費規程を設けることとは別の労働条件の問題です。
社員への説明だけで、給与を自由に旅費へ置き換えられるという意味ではありません。
例えば、給与と旅費を合わせた支給額が20万円でも、その内訳が「給与15万円、旅費5万円」であれば、社員からは「自分の給料は15万円」と受け止められやすくなります。
これは金額の見え方を説明するための例ですが、会社側が合計額で考えていても、社員の受け止め方は違いました。
導入するときには、仕組みや目的を説明します。
最初は社員も理解し、納得していました。
しかし、時間が経つと、その認識が変わってきました。
旅費は、もらって当たり前。給料は、安い。
そういうことになっていったのです。
会社としては、社員の手取りも考えて取り組んだつもりでした。
しかし、社員にとっては、旅費が支給されることと、給与が上がることは別でした。
会社は支給総額を見ていても、社員は給与の額面を見ている。
旅費は出張に伴う費用を賄う性質のお金ですから、社員が給与と分けて考えること自体は自然です。ただ、運用する側としては、この認識のずれが想像以上に大きかったのです。
旅費規程のデメリットは、運用し続ける手間にもある
会社側の事務負担もありました。
旅費規程は、作って保管しておけば終わりではありません。
私の会社では、行き先や仕事の内容を確認し、規程に照らして支給額を計算し、その都度、記録を残していました。
いつ、誰が、どこへ、何の仕事で行ったのか。
なぜ、その金額を支給したのか。
後から確認されても、説明できる状態にしておく必要がありました。
あらかじめ支給基準を決めていても、それを実際の仕事に当てはめ、計算し、記録する作業は残ります。一件ずつは小さな処理でも、件数が増えれば負担になります。
節税できる金額は紹介されても、そのために日々どれだけの時間と手間がかかるかは、あまり語られていないと感じます。
旅費規程は否認されなかった。それでもやめた
私の会社では、旅費についてかなり細かく帳簿や記録をつけていました。
その結果、税務調査でも、この点は否認されませんでした。
ただ、そこで感じたのは、支給の根拠を整え、調査の際に説明するための負担でした。
私自身には、節税を強く意識した処理だと受け止められ、ほかの処理まで厳しく確認されるのではないか、という懸念もありました。
もちろん、旅費規程を使っているだけで会社の印象が悪くなるとか、それが理由で調査が厳しくなると断定することはできません。
これは、私が経営者として感じた不安です。
それでも、日々の管理と、調査に対応できる状態を維持することまで含めると、私には負担が大きく感じられました。
「ここまで細かい処理をして、続けるべきことなのだろうか」
それが、率直な感想でした。
税務上認められることと、自分の会社で続ける価値があることは、別でした。
考え方が変わった一番の理由は、別の税務上の経験
旅費規程をやめたことは、私の経営に対する気持ちが変わった理由の一つです。
ただ、一番大きかったのは、それとは別の税務上の問題でした。
自分ではしっかり処理していたつもりでも、税務調査で認められず、追徴課税を受ける経験をしました。
その問題では、弁護士を立て、税理士に損害賠償を請求するところまでいきました。
そして、賠償金を受け取ることができました。
しかし、お金が戻ってきたから、それですべての負担が解消されたわけではありませんでした。
賠償金にも税金がかかったという驚き
私が驚いたのは、受け取った損害賠償金にも税金がかかったことです。
私の場合、その税負担は、受け取った金額の半分弱に当たりました。
損害を補うために受け取ったお金が、そのまま手元に残るわけではない。
そのことを、実際に経験しました。
※損害賠償金の税務上の扱いは、受取人が個人か法人か、何を補償するお金かなどによって異なります。
すべての損害賠償金に課税されるという意味ではなく、ここで書いているのは私自身のケースです。
弁護士費用も、別々にかかった
さらに、税理士への損害賠償請求にかかった弁護士費用だけで、100万円以上を支払いました。
それとは別に、税務調査の終盤には、税務調査を専門に扱う弁護士にも依頼しました。
こちらは、その都度支払っていたため正確な総額は覚えていませんが、記憶では180万円ほどかかったと思います。
損害賠償請求のための弁護士費用と、税務調査への対応のための弁護士費用。その両方が必要になったのです。
そこに、私自身が対応に費やした時間と、精神的な負担もありました。
賠償金を受け取れたという結果だけでは、実際にどれほどの負担が残ったかは伝わらないと思います。
35年以上、同じ税理士にお願いしていても起きた
私は35年以上会社を経営し、税務調査も何度も経験してきました。税理士も、その35年間、同じ税理士にお願いしていました。
その長い付き合いの中でも、こうした問題は起きました。
だからこそ、長年お願いしている税理士がいることや、これまで同じように処理してきたことだけで、安心できるとは思わなくなりました。
私の実感としては、今の税務調査は、少し前とはまったく違います。
担当者によって、確認の仕方や判断に違いがあるのではないかとも感じています。ただし、これは私自身の経験に基づく見解であり、すべての税務調査について断定する話ではありません。
私が伝えたいのは、税理士に相談して進めていても、想定していなかった指摘を受けることがあるということです。
税務調査を、甘く見てはいけない。
それが、何度も調査を経験し、その対応と問題解決のためにお金と時間を使った私の率直な感想です。
最後にたどり着いた、私なりの節税の基準
こうした経験を重ねて、私が最後にたどり着いた答えは、とても単純でした。
仕組みがわかりやすく、根拠を明確に説明でき、後々の管理や対応に負担を残しにくいものだけを取り入れる。
これが、私なりの節税の基準になりました。
税金がいくら減るかだけでなく、そのために仕事がどれだけ増えるのか。
後から確認されたときに、どれだけの説明や対応が必要になるのか。
そこまで含めて考えなければ、本当の費用対効果はわかりません。
専任の経理担当者や管理体制が整っている会社なら、旅費規程についての判断も違うかもしれません。出張の頻度や業務内容によっても変わると思います。
しかし、経営者自身が営業も現場も経理も担うような小さな会社では、その手間が経営者の時間を使います。
少なくとも私の会社では、その負担をかけてまで続ける価値を感じられませんでした。
デジタル化が進む今、払うべき税金はしっかり払う
そして、はっきり言えば、デジタル化が進む今は、払うべき税金は、しっかり払う。
その姿勢で経営する時代だと、私は思っています。
もちろん、正当に使える制度や控除は活用します。
ただ、節税のために仕組みを複雑にし、その後ずっと記録や説明の負担を抱えることは、私は選ばなくなりました。
本業で利益を生み、必要な税金を払い、残ったお金をどう使うかを考える。
その方が、経営も気持ちもすっきりすると感じるようになりました。
経営から退いた今は、ほどほどに経営する価値も感じる
経営から退いた今は、もう一つ感じていることがあります。
売上や利益を増やそうと頑張っても、それに伴う税金や事務、責任の負担まで考えると、手元に残るお金や暮らしの満足が、同じように増えるとは限りません。
必要な税金と管理の負担を引き受けてもなお、事業を大きくする意味を感じられるなら、それも一つの選択です。
ただ、そこまでして拡大したいと思えないのであれば、無理に売上を大きくせず、自分が納得できる規模で、ほどほどに経営する方がよいのではないか。
今の私は、そう感じるところまで来ています。
旅費規程の運用は、その気持ちに至った理由の一つでした。
一番大きかったのは、しっかりやっているつもりでも税務上の問題が生じ、その解決にも、その後にも負担が残った経験です。
今回の相談を受けて私が伝えたいのは、旅費規程を一律に否定することではありません。
紹介されている節税効果だけでなく、社員の受け止め方や日々の管理、その後の説明にかかる負担まで考えて判断してほしいということです。
いくら節税できるかだけではなく、最終的に、お金と時間と心の余裕がどれだけ残るのか。
35年以上の経営を経た今、私はそこを大切に考えています。
協同組合かけはし/KAKEHASHI HUMAN MONGOL LLC 後藤友亮/GOTO YUSUKE
静岡県浜松市/モンゴル・ウランバートル 公式サイト:https://www.kakehasi.biz/





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