水害リスクがあっても便利な街に住めるのか――浜松市で考える、これからの土地選び

これからの土地選びは、水害リスクの有無だけでは判断できない
これからの土地選びでは、「水害リスクがあるか、ないか」だけでなく、浸水深、流速、浸水継続時間、避難可能性を確認し、住宅の構造や設備によって被害をどこまで軽減できるかを考える必要があるのではないでしょうか。
2026年10月、浜松市内の不動産屋さんと住宅価格や土地の売れ行きについて、いろいろと話をしました。
その会話から見えてきたのは、住宅価格の高騰、人口減少、高齢化、土地の高低差、そして水害リスクという問題が、互いに深く関係しているという現実でした。
今回は、実際の水害経験や現在の生活環境も交えながら、これからの住宅と土地選びについて考えてみたいと思います。
水害を避けて高台に住めば、本当に安心なのか

不動産屋さんから聞いた話の中で、特に印象に残ったことがあります。
以前は人気があった高台の住宅地でも、高低差のある土地は売れにくくなっているという話です。
例えば、道路沿いに駐車場があり、そこから階段を上った場所に玄関がある住宅。
昔なら立派で、憧れの住宅だったような造りです。
ところが、実際に住んでいる人が高齢になり、階段の上り下りが大変になって売却するケースも多いそうです。
購入する側も、将来自分が高齢になったときの生活を考えるため、なかなか買い手が見つからないといいます。
浜松市には、高台でありながら平坦な土地が広がる地域も多くあります。
こうした場所は洪水を避けやすいという利点がありますが、その一方で、便利な鉄道駅から離れていることも少なくありません。
また、高台の住宅地でも、場所によっては坂道や階段が多く、年齢を重ねるにつれて毎日の移動が負担になる可能性があります。
水害に強い場所を選べば、今度は生活の利便性が犠牲になることもある。
ここに、高齢化社会ならではの土地選びの難しさがあると感じました。
一方、駅周辺には水害リスクがあっても需要がある

不動産屋さんによると、浜松市では郊外の土地が売れにくい一方、駅周辺の便利な場所は高くても売れているそうです。
興味深かったのは、多少の浸水リスクがある地域でも、利便性が高ければ購入する人がいるということでした。
駅に近ければ、車を運転できなくなっても、鉄道やバス、徒歩などで移動できる可能性があります。
高齢化が進む社会では、この利便性は大きな価値になるでしょう。
しかし、浜松駅周辺や馬込川流域の一部には、ハザードマップ上で浸水が想定される地域もあります。
では、水害リスクを避けるために、日常生活が不便な高台を選ぶべきなのか。
それとも、多少の浸水リスクがあっても便利な場所を選び、住宅の構造や避難計画で備えるべきなのか。
この問題に、すべての人に共通する答えはないと思います。
大切なのは、危険の程度を具体的に把握したうえで、自分の生活に合った場所を選ぶことではないでしょうか。
ハザードマップで確認したい4つのこと

私が重要だと考えるのは、ハザードマップを単に「色が付いているかどうか」で判断しないことです。
具体的には、次の4つを確認したいと思います。
① 浸水深
住宅の周囲に、どの程度の高さまで水が来ると想定されているのか。
30cm程度の浅い浸水と、1m以上の浸水では、建物への影響や必要な対策が大きく変わります。
② 流速と家屋倒壊の危険性
水の深さだけでなく、流れの強さも重要です。
同じ浸水深でも、流れが強ければ建物への被害や人が流される危険性が高まります。
特に、家屋倒壊等氾濫想定区域に該当しているかは、必ず確認したい項目です。
③ 浸水継続時間
水が何時間、あるいは何日間残る可能性があるのか。
建物が無事でも、道路の冠水や停電、断水が長引けば、生活を続けることが難しくなる場合があります。
④ 安全に避難できるか
近くに安全な避難場所があるか。避難経路が冠水する危険性はないか。
建物の構造や浸水深によっては上階への避難が可能な場合もありますが、建物自体の安全性や、浸水が続く間の生活環境まで考える必要があります。
危険が高まってから慌てるのではなく、事前に避難方法を決めておくことが重要です。
私は30年前の水害経験から、住宅の床を30cm高くした

私の自宅は、浜松駅から約1.8kmの住宅地にあります。
駅までは自転車なら5~10分、タクシーでも約1,000円です。
自宅には複数台の車を停められる駐車スペースがあり、隣には公園もあります。
浜松駅へのアクセスが良く、駅前の利便性を利用しながら、比較的手頃な土地価格でゆとりのある車生活を送れる場所です。
ただし、一つ気になるのが馬込川の水害リスクです。
日常生活の便利さという大きなメリットがある一方で、万が一の水害への備えも欠かせない立地なのです。
今から約30年前、現在の住宅を建てる際、以前住んでいた場所で水害に遭った経験から、1階の床面を周囲の地面より30cm高くすることにしました。
建物は鉄骨造の3階建てで、1階にも居住スペースがあります。
今回、改めてハザードマップを確認したところ、自宅周辺の想定浸水深は0.3m未満となっていました。
想定どおりに住宅周囲の浸水深が30cm未満に収まれば、1階の床面まで水が達しない可能性があります。
30年前の水害経験から取り入れた対策が、今になって改めて意味のあるものだったと感じています。
もちろん、これで絶対に安心というわけではありません。
想定を超える大雨や内水氾濫、床下浸水、排水管からの逆流、電気設備への被害などは別に考える必要があります。
それでも、住宅を建てる段階で水害への備えを考えておくことには、大きな意味があると思います。
水害に備えた住宅の構造を考える

これから浸水リスクのある地域で住宅を建てるなら、土地の条件に応じて、次のような対策が考えられます。
基礎や1階の床面を高くする
玄関などに止水板を設置できる構造にする
分電盤や給湯器などの重要設備を高い場所に設置する
排水口や下水道からの逆流対策を考える
浸水後に復旧しやすい建材や設備配置を検討する
安全な避難場所と早期避難の方法を決めておく
ただし、深い浸水や強い水流が想定される場所では、建物の対策だけでは十分ではありません。
住宅の構造で対応できるリスクと、土地そのものを避けるべきリスクを区別する必要があります。
浜松駅から1.5~2kmという距離に注目する理由

今回の不動産屋さんとの会話から、私は浜松駅から少し離れた住宅地にも改めて注目するようになりました。
駅前は便利ですが、土地価格が高く、複数台の駐車場を確保しようとすれば、さらに費用がかかる場合があります。
一方、1.5~2kmほど離れた住宅地なら、土地価格や敷地条件によっては複数台の駐車場を確保でき、必要なときには自転車やタクシーで中心部へ移動できます。
若い頃は車を便利に使い、年齢を重ねたら少しずつ車への依存を減らしていく。
こうした生活の変化に対応できる立地は、これから評価される可能性があるのではないでしょうか。
もちろん、高齢になっても暮らしやすいかどうかは、駅までの距離だけでは判断できません。
道路の高低差、買い物施設、医療機関、バス路線、水害リスクなども重要です。
浜松では、駅の北側と南側で事情が違う

ここで注目したいのが、浜松市特有の交通事情です。
浜松駅から同じ1.5~2kmでも、北側と南側では土地の利用価値が異なります。
北側には遠州鉄道が走っており、浜松駅から少し離れても、遠鉄の駅を利用して中心部に移動できる地域があります。
こうした鉄道の利便性は、土地価格にも反映されやすいと考えられます。
一方、浜松駅の南側には、同じように南北へ延びる鉄道路線がありません。
そのため、浜松駅への移動は徒歩、自転車、バス、タクシーなどが中心になります。
私は、この交通環境の違いが、駅南と駅北の土地価格に差が生まれる理由の一つではないかと考えています。
駅北と駅南、1.5~2km圏の生活価値を比較
比較項目 | 駅北・遠鉄沿線 | 駅南・1.5~2km圏 |
鉄道の利便性 | 遠鉄の駅を利用できる地域がある | 浜松駅への移動が中心 |
土地価格 | 鉄道利便性が評価されやすい | 比較的手頃な場所がある |
駐車スペース | 価格と敷地面積による | 複数台確保しやすい場所もある |
月極駐車場 | 駅周辺では高めになりやすい | 比較的安い場所がある |
中心部への移動 | 電車・徒歩・自転車 | 自転車・バス・タクシー |
若い世代の生活 | 鉄道通勤・通学に便利 | 車と自転車を使い分けやすい |
高齢期の生活 | 鉄道の利用が便利 | バス・タクシーや近隣施設が重要 |
水害リスク | 地点ごとに異なる | 地点ごとに異なる |
※土地価格や駐車場料金は地域によって異なります。上記は交通環境と土地利用の特徴を比較したものです。
駅南には、駅前にはないメリットがある

浜松駅南側の1.5~2km圏で私が注目しているのは、土地価格と日常生活の自由度のバランスです。
駅前の土地は便利ですが、その利便性がすでに高い価格に織り込まれている可能性があります。
一方、駅南の少し離れた住宅地では、比較的手頃な価格で敷地を広く確保できる場所があります。
自宅に複数台の車を停め、必要なときには自転車で浜松駅へ向かう。
高齢になって車を利用しなくなれば、バスやタクシーを利用する。
こうした生活ができるのであれば、必ずしも高額な駅前の土地を購入する必要はないのではないでしょうか。
駅前との価格差を交通費で考えてみる
例えば、駅近の土地よりも1.5~2km離れた土地が500万円安かったとします。
駅までタクシーを利用し、片道1,000円で月4往復すると仮定します。
年間のタクシー代は96,000円です。
500万円は、単純計算で約52年分のタクシー代に相当します。
もちろん、これはあくまで比較のための仮定です。
将来のタクシー料金の上昇、利用できる車両の確保、土地価格の変動などは考慮していません。
それでも、駅まで徒歩5分という利便性のために、どこまで高い土地代を支払うべきなのかを考える材料にはなると思います。
大切なのは、駅からの距離ではなく、土地価格に見合うだけの生活価値があるかどうかです。
浜松駅から2km以上離れた土地にもメリットがある

もちろん、浜松駅から2km以上離れた住宅地にも魅力があります。
まず、土地の選択肢が広がることで、浸水リスクの比較的小さい場所や、平坦で暮らしやすい高台も候補に入ってきます。
また、土地価格が手頃であれば、広い庭や複数台の駐車場、大きな車庫などを確保しやすくなります。
一方で、駅から離れるほど、通勤や買い物、通院などで車に頼る機会が増える場合があります。
若いうちは問題がなくても、高齢になって車を運転できなくなれば、その不便さが表面化する可能性があります。
ただし、浜松駅から離れていても、遠州鉄道の駅や地域の生活拠点に近ければ、必ずしも不便とは限りません。
大切なのは、浜松駅から何キロ離れているかだけでなく、浸水リスクが小さく、平坦で、高齢になっても車に頼りすぎず生活できる場所なのかということです。
今は人気の地域も、将来はどうなるのか

もう一つ、気になることがあります。
それは、現在は人気があり、住宅が建ち並ぶ地域でも、30年後、40年後まで同じ環境が続くとは限らないことです。
高齢化によって住民が減り、若い世代が新たに移り住まなければ、空き家が増えていく可能性があります。
人口が減れば、商店や公共交通などの生活環境も変わっていくかもしれません。
さらに行政にとっても、利用者が減った地域の道路や上下水道などを維持する負担が大きくなります。
つまり、水害に強い土地を選んだとしても、将来その街が暮らしやすいままであるとは限らないのです。
これからの土地選びでは、現在の安全性だけでなく、将来も住民が暮らし続ける地域なのか、行政がどのような街づくりを進めているのかまで考える必要があると思います。
浜松市と静岡県の治水対策にも期待したい

浜松市は人口減少や高齢化に対応するため、立地適正化計画に基づく街づくりを進めています。
既存の市街地や鉄道沿線を有効に活用するのであれば、水害への安全性を高める取り組みも重要になるでしょう。
馬込川についても、静岡県と浜松市が河川整備や流域治水対策を進めています。
ただし、治水工事には時間も費用もかかります。
計画があることと、実際に浸水リスクが低下することは別です。
行政による治水対策を期待しながら、各家庭でもできる備えを進める必要があります。
そして、これから人口を誘導していく地域と、治水対策に重点的に投資する地域がどのように重なっていくのか。
私は、そこにも注目していきたいと思います。
日常の利便性と、いつ起こるか分からない災害リスク

今回、不動産屋さんとの会話を通じて、最も考えさせられたのはこの問題です。
水害を避けるために高台を選べば、日常生活が不便になる場合があります。
一方、駅周辺の平坦な土地は便利ですが、場所によっては浸水リスクがあります。
さらに、今は暮らしやすい住宅地でも、将来の高齢化や人口減少によって環境が変わる可能性があります。
水害リスクを避けることばかり考えれば、毎日の生活が不便になるかもしれません。
しかし、生活の便利さだけを優先して、大きな災害リスクを無視することもできません。
大切なのは、災害を過度に恐れることでも、軽視することでもなく、危険の程度を正しく知ること。
そして、土地の条件に加えて、建物の構造や設備、避難計画、将来の生活環境まで考えることです。
これからの土地選びで問われるのは、単に「駅に近いか」「水害に強いか」ではないと思います。
その土地の価格で、若い頃から高齢になるまで、どれだけ安心して快適に暮らし続けられるか。
人口減少と高齢化が進む日本では、この視点がますます重要になるのではないでしょうか。
「災害に備えながら、人生の最後まで暮らしやすい街に住む」
私は、これからの土地選びに必要なのは、そんな考え方だと思います。
参考資料・ハザードマップ
浜松市防災マップ
浜松市|洪水浸水想定区域図について
浜松市|内水ハザードマップ
浜松市|雨水出水浸水想定区域図・浸水継続時間
※本記事は2026年10月時点の公表資料、個人の体験、地元不動産業者への聞き取りを基にした考察です。個別の土地の安全性や不動産価格を保証するものではありません。





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