日本人が気づいていない「見えない資産没収」──給料も預金残高も同じでも、買えるものが減っていく
更新日:8月26日

暴落なら、誰でも危機感を持ちます。
株価が半分になった。預金が減った。会社が倒産した。
こうした変化なら、誰にでも「資産を失った」と分かります。
しかし今、日本で起きていることは、もっと厄介です。
一瞬で奪われるのではありません。
数年かけて、静かに価値が削られていく。
預金残高は同じ。給料の額面も同じ。
それなのに、そのお金で買えるものは少しずつ減っている。
私はこれを、比喩的に言えば、
「見えない資産没収」
のようなものだと感じています。
そして、よく考えてみると削られているのは、預金だけではありません。
私たちが働いて受け取る「労働の対価」そのものも、同時に目減りしているのです。
預金が減らなくても、価値は減る
海外の銀行金利や投資商品の利回りを見て、15〜20%などという数字を聞けば、日本人の多くはまず、
「怪しい」「そんな利回りはおかしい」「ポンジスキームではないか」
と疑うでしょう。
たしかに、日本円がまだ強く、物価も安定し、預金しているだけでも購買力が大きく失われにくかった時代なら、その感覚にも合理性がありました。
しかし、今の日本はもう、あの頃とは違います。
日本の政策金利は依然として低い水準にある一方、物価は上昇しています。
預金金利より物価上昇率の方が高ければ、銀行口座にある数字は減っていなくても、そのお金で買える商品の量は減っていきます。
つまり、
名目上の資産は同じでも、実質的な資産価値は減っている。
ということです。
1,000万円の預金が10年後も1,000万円だったとしても、物価が大きく上がれば、その1,000万円で買える住宅、車、食品、サービスの量は少なくなります。
残高だけを見れば何も失っていない。
しかし購買力で考えれば、確実に資産は削られています。
円安は、日本人の「世界での購買力」も削る
さらに問題なのは、国内の物価上昇だけではありません。
円そのものの価値も、海外通貨に対して大きく低下しています。
たとえばスイスフランに対して見ても、数年前と比べて円の価値は大きく下がりました。
ドルに対しても同じです。
これは単なる為替チャートの話ではありません。
円安とは、
日本人の給料や預金を、世界基準で見たときの価値が下がること
でもあります。
以前なら1,000万円で買えた海外不動産、海外サービス、輸入品、海外旅行などが、今では同じ1,000万円では買えなくなっている。
日本国内だけで暮らしていると分かりにくいですが、海外へ出ると円の購買力低下をかなり強く感じます。
そして、労働の対価まで削られている
ここが、さらに重要なところです。
物価が上がり、円の価値が下がるということは、
すでに持っている資産だけでなく、これから働いて受け取る給料の価値も下がっている
ということです。
たとえば月給30万円の人がいたとします。
給料が30万円から変わらなかったとしても、生活に必要な商品やサービスが10%、20%と値上がりすれば、その30万円で買えるものは少なくなります。
つまり、数字としての給料は同じでも、
実質的な労働対価は減っています。
以前なら1時間働けば買えたものが、今は1時間半働かなければ買えない。
これを別の角度から見れば、
同じ時間を働いているのに、受け取っている価値が少なくなっている
ということです。
だから私は、今起きていることは単なる「見えない資産没収」だけではないと思います。
同時に、
「見えない労働対価の目減り」
も進んでいるのです。
働いても、貯めても、両方から削られる
これは非常に厳しい構造です。
働いて30万円を得る。
しかし、その30万円の購買力は以前より低い。
それでも節約して5万円を貯金する。
ところが、その貯めた5万円もインフレや円安によって実質的な価値が減っていく。
つまり、
働いて得る段階でも価値が削られ、貯めた後にも価値が削られる。
という二重構造です。
これでは、真面目に働き、節約し、貯金してきた人ほど、
「こんなに頑張っているのに、なぜ豊かにならないのか」
と感じるのは当然です。
日本は金利を簡単に上げられない
では、金利を上げればいいのか。
話はそれほど簡単ではありません。
金利を上げれば、円安を抑えたり、インフレを冷やしたりする方向には働きます。
しかし一方で、
住宅ローン、企業の借入、不動産価格、株価、国債の利払い、景気、
などに大きな負担がかかります。
日本は長い間、超低金利を前提に経済や財政の仕組みを作ってきました。
そのため、急激な金利正常化には大きな痛みを伴います。
しかし、金利を上げなければ円安が続きやすく、輸入物価は上がり、生活コストが上昇し、預金や給料の実質価値がさらに削られる可能性があります。
つまり今の日本は、
「金利を上げれば痛い。上げなくても痛い」
という、非常に難しい構造に入りつつあります。
一番怖いのは、ゆっくり進むこと
この問題の怖さは、一気に起こらないことです。
明日、預金が半分になるわけではありません。
来月、給料が突然半分になるわけでもありません。
だから、多くの人は危機として認識しません。
しかし、
去年より食品が高い。数年前より電気代が高い。車も住宅も高い。海外旅行も高い。輸入品も高い。
それが何年も積み重なる。
そしてある日振り返ると、
「同じ100万円なのに、昔の100万円とは全く違う」
という状態になっています。
暴落なら誰でも逃げようとします。
しかし、ゆっくり価値を奪われると、人は慣れてしまいます。
これこそが、私が最も怖いと思うところです。
「何円持っているか」より「何が買えるか」
これからは、資産を見るときにも、
「預金が何万円あるか」
だけでは足りないと思います。
本当に見るべきなのは、
そのお金で何が買えるのか。
そして給料についても、
「月収が何万円か」
ではなく、
その給料で、どれだけ生活できるのか。
を見る必要があります。
お金とは、本来数字ではありません。
交換できる価値です。
1,000万円という数字が同じでも、買えるものが半分になれば、実質的には半分に近い価値しかありません。
月給30万円という数字が同じでも、生活費が大きく上がれば、その30万円の労働対価としての価値も低下しています。
通貨をどこに置くかで差が生まれる時代
もし円安・物価上昇・低金利という状態が長く続けば、日本人の資産格差は別の形でも広がっていく可能性があります。
日本円だけを持っている人。
外貨を持っている人。
海外資産を持っている人。
不動産や金などの現物資産を持っている人。
それぞれが、同じインフレや円安から受ける影響は違います。
だからこれからは、
「いくら貯めるか」だけではなく、「何で持つか」
も重要になっていくと思います。
もちろん、海外資産や外貨なら必ず安全という話ではありません。
為替も相場も変動します。
ただ、資産のすべてを一つの通貨だけに依存することにもリスクがある。
そういう時代に入ったのだと思います。
日本人が本当に失っているもの
今、日本人が静かに失っているのは、単なる預金価値だけではないのかもしれません。
貯めたお金の価値。
働いて得る給料の価値。
世界で物を買える購買力。
この3つが同時に削られているとすれば、問題はかなり深刻です。
預金残高は変わらない。
給料の数字も変わらない。
しかし暮らしは苦しくなる。
だからこそ、何が起きているのか分かりにくい。
私はこれこそが、
日本人が気づきにくい「見えない資産没収」と「見えない労働対価の目減り」
だと思います。
一気に奪われるのではありません。
数年かけて、静かに。
給料も、預金も、購買力も。
気づいたときには、数字は同じなのに、その中身だけがまったく別物になっている。
これが今の日本で起きている、最も気づきにくい変化の一つなのではないでしょうか。





コメント